先日、番外編として都立高校入試問題の理科7年分の分析結果を記事にしました。
今日はその続編として今年(2024年度)に出題された問題を整理しました。
都立高校の理科共通問題、すこし難化したと感じます。
入試問題、解答、正答率などの情報は下記のリンクからPDFで得られます。
令和6年度都立高等学校入学者選抜 学力検査問題及び正答表|東京都教育委員会ホームページ
今年(2024年度)の理科の出題概要を列挙形式にしてみました。
大問1<小問集合>
問1<化学>水素と酸素の反応の化学式
問2<物理>電熱線の発熱の電気量[J]
問3<生物>動物の分類(脊椎の有無)
問4<化学>ヘリウム原子内の電荷
問5<地学>天気図の記号
問6<生物>ヒトの血液のはたらき
大問2<小問集合>
問1<地学>示準化石、示相化石
問2<化学>酸化と還元の質量計算
問3<物理>屈折、厚さ2倍での変化
問4<生物>食物連鎖ピラミッドの構成
大問3<地学・太陽の動き>
問1 透明半球で南中高度を選択
問2 太陽の動く速さを記述式で考察
問3 北から見た地球で時刻と方位判断
問4 公転面から見た地球で昼の長さ判断
大問4<生物・植物・呼吸と光合成>オオカナダモ
問1 <実験法>顕微鏡の使い方
問2 呼吸と光合成での気体の出入り
問3 光合成の起きる条件とつくりの選択
大問5<化学・水溶液>
問1 電気分解、電解質かによる挙動の違い
問2 溶解度グラフ読み取りと濃度の挙動
問3 溶解度グラフの傾きを記述式で考察
問4 濃度の値から含有水分量を計算
大問6<物理・力学>力学台車の滑落
問1 静滑車と動滑車、作用反作用の法則
問2 平均の速さ、斜度と平均の速さの比
問3 台車に働く重力と分力の斜度による影響
問4 位置、運動の各エネルギーの挙動
先日の記事 では過去7年の出題の流れから要注意な単元を列挙しました。
予想があたったもの、外れたもの、どちらも有りました。
☆(白星)は、まぁ当てられたかなと思う出題、★(黒星)は外したと思う出題です。
【生物】
・植物の蒸散・呼吸・光合成 ☆大問4で出ました
・ヒトの血液と循環器系、器官 ☆大問1の問6
・遺伝の規則性 ★出ず
・植物の体のつくり ★出ず
【化学】
・物質の同定実験 ★出ず
・電気分解、化学電池とイオンの動き、pH変化 ☆大問1の問4 ☆大問5の問1
・蒸留(蒸発と凝結) ☆大問5で★「濃度」の形で出た
・燃焼、酸化、熱分解、還元 ☆大問2の問2
【物理】
・平均の速さ ☆大問6
・ふりこ ★出ず
・斜面の球ころがし ☆力学台車の形で大問6で出ました
・仕事率の計算 ☆大問1の問2 ☆大問6の問1
・光の屈折、凸レンズ ☆大問2の問3
・電流と磁界、モーター ★出ず
【地学】
・恒星の動き、月の形や動きと月齢 ☆太陽の透明半球として大問3
・地震、発生時刻の計算 ★出ず
・地層、地質柱状図、示準化石 ☆大問2の問1
・水蒸気量、露点、気象現象、前線、天気図(おそらく小問) ☆大問1の問5
大きく外したと感じた出題はふたつ有りました。
【化学】で濃度の計算が出たことと、【地学】で太陽の動きが出た事です。
化学の出題は溶解度と濃度の関係や、飽和溶解度での挙動への理解を問う良問でした。
大問5の問2から問4は中学入試の上位生にも教材として使いたいです。
地学の天体関連は、大問2の小問として3回続けて出ています。
2023年が太陽、2022年が月、2021年が恒星でした。
で、先日の記事 では「恒星の動き、月の形や動きと月齢」に注意と書きました。
ところが今回の出題は、2020年の大問3「太陽の動き、透明半球、角度と放射の関係」のバリエーションでした。 これは読み間違えた。
透明半球と太陽の動きに関しては、この記事を参照してください。
今回、都立高校入試の指導をすることになり超特急で過去7年分の出題を分析してみました。
その範囲で今年度(2024年度)の問題を見ると、すこし難化していると感じます。
難化といっても感覚的なものですけれど、ヒトの血液で単純な組成を超えてヘモグロビンの働きを尋ねたこと、化学での濃度に関するつっこんだ設問、物理であまり登場してこなかった滑車の理解が問われたことなどからの感想です。
今年度を含めて都立高校の理科を8年分見た全体的な感想としては、「叙述トリック」が多いなぁということです。
出題者が正答率を下げるためにする工夫にはいくつもの種類があります。
(私のブログを「いぢわる」で検索すると関連記事が出て来ます。)
たとえばコアな知識を問う。 (やりすぎると重箱の隅をつつく問題になる)
たとえば多量の情報の中から必要な情報を探させる。
たとえば無関係な情報を散りばめて受験生を戸惑わせる。などなど。
都立高校の理科を読み進めて感じたこと。
・問題文の文字数が多い
・問題文の書き出しと設問で尋ねていることが違っている(特に大問2)
その二つが「叙述トリック」と感じた原因です。
今年度の大問2は、すべて河原や山中で見かけた岩石からスタートして、設問そのものは「化石」「還元」「屈折」「生物ピラミッド」でした。
「河原や山中で見かけた岩石からスタート」する必然性が私には感じられません。
それは問題製作者の思考の流れであって、受験生にその流れをたどらせる目的は?
後に続く大問3から大問6も、やたら記述が詳細に感じます。文字数が多いです。
それらのことから考えると、都立高校の理科では「膨大な情報の中から必要な事柄を見つけ出す能力」を生徒に求めているのかも知れませんね。
でもね、
正答率を下げる(=難度を上げる)ための「いぢわる」として「叙述トリック」を使うのは私は好きじゃありません。
理由は、試験時間の制限のために設問数を減らさざるを得ないから。
それにより運不運(=知ってる知識が出るか否か)の要素が大きくなってしまうから。
一発勝負のペーパーテストに運不運の要素はどうしても入って来ます。
運不運の要素を軽くするためには、知識を問う設問なら数を多くするべきです。
少ない設問数で問うなら部分点の付く解答形式、つまり記述式で答えさせるべきです。
最悪なのは「叙述トリック」の都合で設問数が少ないのに知識を問う選択肢式の設問が大多数を占める入学試験だと考えます。
記述式の解答形式で部分点の判定をする場合、採点官には大きな負担が掛かります。
ですが受験生に高い能力を求めるなら、採点する側にも高い能力が求められるべきです。
このあたりの感想は、中学入試で都立一貫校の適性検査に感じて来たことと通じます。
今日は長くなりましたので、その話は別の記事で書きます。