駒澤塾:中学受験の算数・理科

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なぜ遺跡は埋まっているのか

地球温暖化の影響で、国内でも大雨による被害が出ています。 山すその住宅街に泥水が流れ込んだ場合、雪と違って自然には消えない泥の片付けは、水分が多いうちはスコップですくえず、乾いてしまえばカチカチになるやっかい物です。 今回は入試問題とからめながら洪水が運ぶ泥について考えてみました。 

 

中学入試の理科では、安全に役立つ情報が出題されることが多くあります。 化学分野ではアルコールランプやガスバーナーの使い方や、試験管で液体を加熱するときに沸騰石を入れる理由の問題などがすぐに思いつきます。

地学分野で言えば、台風、地震、プレート運動などに加えて、水の働き(侵食・運搬・堆積)、ウォーターハンマー現象、線状降水帯、温暖化現象とその原因などが要チェック知識になっています。

 

それでは「泥」に関連して、流速との関係のグラフを読み取る入試問題の紹介です。

 

【問題】 (海城中学 2019年の第一回入試 大問4から一部抽出・構成変更)

問1 文章中の( 1 )~( 3 )に入る,最も適当な地形の名称をそれぞれ答えなさい。

問2 <省略>

問3 図3は,水中で堆積物の粒子が動きはじめたり動きが止まったりする流速と、粒子の大きさ(粒径)との関係を、水路を使った実験によって調べて示したものです。 この図から読み取れることとして適当なものを下のア~カからすべて選び、記号で答えなさい。 ただし、図中の2つの曲線は、次のように描かれています。

曲線X : 水路に粒子を置き、少しずつ流速を上げていった場合、この流速を上回ったときに粒子が動き始める。
曲線Y : 流速が速く、 粒子が流れている水路で少しずつ流速を下げていった場合、 この流速を下回ったときに粒子の動きが止まる。

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【問題文から設問に関連した部分を引用】

流れる水には侵食,運搬,堆積という3つの作用があります。 どの作用が強くはたらくかは,水の流れる速さによって決まります。 ②川底の傾きが大きく,流れが速い山間部では,主に侵食作用が働き, (  1  )がつくられます。 ③山を抜けて平野に入るところでは、河川の流れが遅くなって堆積作用が強まり, (  2  )がつくられます。 このとき,はじめに粒径の大きい礫が推積することから(2)は水はけがよい土地になり,果樹園に利用されることが多くなります。 一方,河口に近い場所では( 3 )がつくられます。 ( 3 )は比較的粒径の小さい堆積物からなり,保水力があるため水田などに利用されることが多くなります。

【選択肢:ここから適切なものを全て選ぶ
 文章中の下線部②の記述と関係が深い図3中の領域は、 領域Ⅰである。
 文章中の下線部②の記述と関係が深い図3中の領域は、領域Ⅲである。
 文章中の下線部③の記述と関係が深い図3中の領域は、 領域Ⅱである。
 文章中の下線部③の記述と関係が深い図3中の領域は、 領域Ⅲである。
 図3 中のの点の流速、粒径にある粒子は、 すべて動いている。
 図3 中のの点の流速、粒径にある粒子は、 すべて止まっている。

 

【解説】

問1 

 ( 1 )  V字谷  

 ( 2 )  扇状地  

 ( 3 )  三角州  

 

問3 

正しい選択肢を漏れ無く選ぶためには、図3のグラフを正しく読み取る必要が有ります。

 

まず曲線Yから見て行きましょう。 説明文に「粒子の動きが止まる」とありますから、領域Ⅲというのは「堆積」に関わる領域だとわかります。 つまり、粒子の大きさ(粒径:グラフの横軸)が大きいと流速(グラフのたて軸)が速くても堆積が始まり、粒径が小さくなるに従って堆積が始まる流速も遅くなって行きますが、ある粒径よりも小さくなると急激に影響が強く出るようになり、ついには流速がゼロでも実質的に堆積が起きない状況になるということを表しています。

「流速がゼロでも実質的に堆積が起きない」? そんな馬鹿な、と感じられた方には、このキーワード 「ブラウン運動

 

次に曲線Xです。 「粒子が動き始める」・・・そう、領域Ⅰは「侵食」に関わる領域です。 さきほどの曲線Yは途中で折れ曲がっているとは言え全体的には右肩上がりのグラフですが、曲線Xは真ん中のへこんだUの字形をしています。 これは、どういうことなのでしょう?

グラフの右側は分かり易いです。 粒子が大きいほど動かし始めるための流速も速いということですから。 一方、左側は「粒子が小さくなるほど削られにくい」ということを表しています。 そんなことが有るのでしょうか? これ、農家の子なら体験として知っている知識かも知れません。 田んぼの「あぜ」には田んぼの底から取った粘土を塗りつけて固めるのです。

 

と言う訳で、からまでの選択肢のうち、上の4行は比較的には簡単です。 

下線部②V字谷が作られるような上流部、よって侵食作用の領域Ⅰですから  ア 

下線部③扇状地が作られるような場所、よって堆積作用の領域Ⅲですから  エ  

 

選択肢の下の2行は、この設問の正答率を大幅に下げたと思われます。

多くの受験生が 領域Ⅰ侵食領域Ⅲ堆積、ということから領域Ⅱ運搬だと考えて選択肢のを入れたのではないでしょうか。 

それは間違いです。

順番に考えて行きましょう。 まず曲線Yに注目するとの点の粒子は堆積を始める流速より速い流れの中にありますから、たしかに運搬されています。

しかし曲線Xを見てみると、の点は曲線よりも下にあります。 つまり「いったん沈殿してしまったら」、Zの点の粒子は、この流速では侵食されない、すなわち運搬もされないのです。

3つの水のはたらきを「丸暗記」した生徒ほど、選択肢オを選んでしまうというミスをやってしまいそうです。

 

オもカも選ぶことはできませんので、

問3の正解は  ア、エ  (くんで要完答、不順可)です。

 

泥というのは、いったん舞い上がるとなかなか沈降しないので水を含んだままになり、沈殿してしまうと固まってしまうというやっかいな性質を持っていますが、それがデータとして表れたグラフを読み取る出題でした。 

 

それにしても、これだけの考察を11年とすこし生きただけの子供が相当な割合で正しく判断出来るようになってしまう訳です。 

中学受験って凄い。

 

うわ、2600文字を超えた。

タイトルの「なぜ遺跡は埋まっているのか」の話は明日にします。

 

 

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