2月の入試まであと20日。 担当する生徒があきらかに「やっていて」、でも受験計画はその「異常に良い」点数を基に組まれていて、このままでは全敗必須・・・そんな状況に心を痛めている経験の浅い先生向けの意見です。
結論から言えば、「二月の勝者」第12巻の冒頭で黒木先生が言うとおり、
「保護者にカンニングの話はご法度です」
もしも教室での演習中に現行犯でカンニングを発見した場合でも、保護者への報告は同僚の先生や教室の責任者と充分に相談したうえで、「伝えるかどうかを判断する」レベルで検討してからにするべきです。
私自身の体験を書きます。
私は受験指導の世界に、大手塾の雇われ講師として入りました。
入ったとたんにどっぷりとはまり、「熱い」先生だったと思います。
受け持った中に、あきらかに「やっている」生徒がいました。
受験計画は偏差値の山頂の数字だけを拾って作った典型的な全敗パターン。
その生徒に一つでも「合格」を、どのようにして取らせられるか悩んでいました。
そんなある日、同僚の先生たちと相談をしていた時のことです。
「あの子、やってるよね。」
「算数でも? こっちでもあきらかにやってる。」
「うん、やってる、やってる。」
「先週の電話相談で、なんとか勝ち取れる学校を入れて欲しくて、校名を挙げてみたけど、お母様はまったく聞く耳を持たないって感じ。」
「個別面談は?」
「来週、火曜」
「面談で状況を納得してもらうのが一番かなぁ。」
「そっちの科目で見せられる資料、有る?」
突然、そばに居たベテラン社員が凄い形相で割り込んで来た。
「〇〇先生! カンニングの話、保護者様にしました?」
「いえ、まだです。」
「におわすような話はしてますか?」
「ベストの数字だけを見るのは危ないですよ、という話はしました。」
「カンニングの現場をおさえたことは有りますか? 何か証拠は持ってますか?」
「いえ、直接見たことは無いです。 ですが、あの答案を見れば・・・」
「だめですっ!
カンニングの話は、今後いっさい封印してください。
におわすのもだめです。
証拠なしに話をしたら大クレームになります。
それも教室長ではすまない本社の法務課案件の大クレームになります。
先生が善意でやろうとしていることは判りますが、
先生ご自身が、ここに居られない状況になりますよ。」
私の場合では、ベテラン社員の指示のおかげでトラブルには発展しませんでした。
その生徒は全落ちしました。
カンニングに関するエピソードは、ブログ『中学受験を笑う』で昨年末から事例が書かれています。
このブログ、一つ一つの発言やアダ名を見ると言語道断ですが、しっかりと読み込んで文脈を理解すると納得できる話ばかりで、私は愛読しています。
登場するエピソードとしては、個別指導塾の時給制講師が、成績乱高下の状況証拠から母親と父親の両方に対してカンニングしていると断定したという話です。
ブログ『中学受験を笑う』から母親への連絡編
ikaretyugakujyuken.blog.fc2.com
ブログ『中学受験を笑う』から父親への連絡編
ikaretyugakujyuken.blog.fc2.com
ブログ『中学受験を笑う』から父親の反応編
ikaretyugakujyuken.blog.fc2.com
カンニングのことを保護者に話したこの講師は、良い先生でしょうか?
一つ言えることは、そういう事をしたけりゃ個人で塾を立ち上げろ! 組織に雇われた立場でやる事じゃねぇ! です。
では生徒本人や保護者の立場から見たら? 無茶な受験計画で全敗になる危険から救ってくれる良い先生でしょうか?
私には良い先生だとは思えません。
この講師は誰のために行動しているのでしょう?
komazawajuku.hatenablog.comこの記事で、私はこう書きました。
熱さとは生徒への思い入れです。 これが足りない人は先生ではありません。
冷たさとは生徒との距離感です。 これが足りない人は ・・・ 怖いです。
『中学受験を笑う』で登場した講師は、このどちらでもない気がします。
熱く見える(はずの)自分に酔っているだけ、では?
カンニングの話は保護者にしてはいけない、では何ができるか?
TVドラマ版の「二月の勝者」では、校舎での演習に(保護者には無断で)易しめの学校の過去問をやらせ、本人は自信を回復、その学校も受験することになり、そこに(だけ)合格、という都合の良いストーリーでした。
これ、やっちゃだめです。
この母親の設定から考えれば大クレームになります。
「私に無断で、こんな『下の』学校の過去問を勝手にやらせた。」
「そのせいで、うちの娘の気持ちが安易な方向へ逃げてしまった。」
「塾が勝手に過去問をやらせたせいで、入れるはずの学校に落ちた。」
こうなります。
今日の記事は、経験の浅い先生向けの意見です。
受験生の保護者様の立場からここまで読まれた方にお伝えしたいこと。
塾の先生が妙に低い偏差値の学校を計画に入れるよう勧めて来た場合は、耳を傾けてください。
何か理由があって勧めているはずです。
もしかしたらそれは「言えない理由」かも知れません。