NHK土曜ドラマの「みかづき」が最終回を迎えました。 このドラマはテーマが見る人によって変わる多面的な構成だったと感じます。 家族の崩壊と復活、受験ブームの創世期、補習塾という場所の価値、などなど。 私は登場する先生たち(特に永作博美さんが演じた千明さん)の「熱さと冷たさのバランス」に興味を惹かれました。
熱さとは生徒への思い入れです。 これが足りない人は先生ではありません。
冷たさとは生徒との距離感です。 これが足りない人は ・・・ 怖いです。
この時期、受験生を指導した先生は修了した生徒の資料を廃棄します。 成績や指導の記録などは個人情報そのものですから細心の注意をはらって廃棄します。 専門の業者(パルプ溶解までの保証付き)に依頼して処理する塾も有ります。
この資料廃棄の作業で、ドンっと箱に放り込むのではなく1ページずつめくって目を通しながら廃棄用段ボールに入れて行く先生がいます。 ときどき紙をめくる手がぴたりと止まります、すっと席を外し、しばらく経って戻って来る先生の目は赤くなっています。
受験生本人も保護者様も、受験が終わったら「タラ、レバ」を考えてはいけません。 受験終了後に「タラ、レバ」を考えるのは私たち先生の仕事です。 第一志望に行けなかった子の顔を思いながら指導の記録を見直していると、「△△をさせていタラ」や「あの時に◇◇を伝えられていレバ」という、つらい、つらいけれど大切な気付きがたくさん湧き出して来ます。 目を赤くして戻って来る先生は「生徒からの教え」を受け取れる熱い先生です。
ですが、
熱い先生が最良の先生かと言えば、そうとも言えません。 熱すぎるがゆえの暴走や、思い入れが強すぎるがゆえの信頼関係の崩壊 ・・・ 「度を外れた暴言」とか、「暴力」、そして激怒した保護者様からの「なんで、あんたにそこまで言われなくちゃいけないのよ!」というクレームなどを起こしかねない先生でもあります。 「熱さゆえ」は何の言い訳にもなりません。
二月の勝者も、私が興味を持って読んでいるのは、この「熱さ」と「冷たさ」のバランスです。
「受験塾は、子どもの将来を売る場所です。」
「スポンサーすなわち親です。」
「ああいうタイプのご夫婦は一度ブッ壊れればいーのよ。」
「課金ゲー?面白いですね、その通りで。」
「塾講師は教育者ではなく、サービス業ですよ」
「また夢などというくだらない話をしているのですか。」
「生徒に負担をかける心配よりも、保護者を黙らせることの方が先です!」
講師間の会話で新人の佐倉さんに向けて黒木教室長から出た発言(一つは桂先生)です。
一つ一つの発言だけを見ると言語道断です。 ですが、(口に出して言うかは別として)こういった距離感を保つ発言を全否定する先生が同僚に居ると ・・・ なんて言うか、怖いです。
この怖いという感覚、うまく伝えられるかな。 私は「純粋善意の人」と呼んでいますけど、自分の考えに一片の疑いも持たない人。 「あなたのためだから」と言いながら生徒の心を壊してしまう人。
という訳で二月の勝者に対する私の視点は、主人公の佐倉麻衣が熱さと冷たさ(思い入れと距離感)のバランスを学んで行く成長の物語だったりします。
冷たい発言を連発する黒木教室長が熱い心を持っていることは雪の校門前激励のシーンを始めとして何度も描かれています。 佐倉麻衣さんの「純粋な」熱さも学習塾の新入社員に居そうなタイプです。
私は「内側に居る人」として二月の勝者の熱さと冷たさのストーリーのバランスは違和感無く読み進んでいるのですが、初めて受験業界の内側に触れる保護者の方から見るとどうなのでしょう? 興味の有るところです。
この涙、好きです。 でも怖い。 それが今日書きたかったことです。