昨日の渋谷教育学園渋谷 2012年のチョコレートに関する問題の解答と解説(と脱線話)です。 四谷大塚さんの過去問データベースに公開された解答と、けっこう食い違いました。
【問題】
問1 テンパリングを行ったチョコレートの方が、より固まりやすくなる理由。
ア 3型や4型が5型の結晶にすみやかに変化するから
イ 結晶核がたくさんできるので、色々なところで結晶化が進むから
ウ 26℃以下にならないと固まらないから
エ 安定な5型の結晶ができるから
【解答と解説】
これ、四谷大塚さんの過去問データベースに公開された解答では「エ 安定な5型の結晶ができるから」が正解になっています。
たしかにテンパリングという手順は、不安定な3型や4型の結晶から、安定で大きな6型の結晶を作らせないように工夫をしながら、5型の結晶にさせるためのものではありますが・・・
設問で尋ねているのは「より固まりやすくなる理由」です。 四谷大塚の解答例のエは、「テンパリングをする理由」です。
正しい理由を選択するために重要な情報が問題文の中にあります。 それは「この小さな5型の結晶を結晶核といい、成長のリーダーとなる。」という部分です。
そこを読んで、この話を思い出しました。
理科好きの子にとっては必読の書だと思います。
雪の結晶に魅せられた中谷先生が、実験室で人工的に雪の結晶を作った装置では、湿度の高い空気を過冷却の状態にし、棒の先につけたウサギの腹の毛(すごく細い)を核として結晶を成長させています。
結晶はきっかけ(結晶核:成長のリーダー)の有無が大きく影響します。 以前の職で経験したシリコンウェハー用のインゴットの製造でも、結晶製造のスタートに使う種結晶の準備が重要な工程でした。 (その話は長くなるので割愛)
この設問、私の出した正解はこちらです。
イ 結晶核がたくさんできるので、色々なところで結晶化が進むから
【問題】
問2 冷やす時にきざんだ市販のチョコレートを入れると、テンパリングを行う必要が無くなる理由。
【解答と解説】
難関校の入試では、しばしば「習っていない事」に関する出題があります。
(なぜ、そのような出題をするのかという話は改めて書きます。)
そのような問題を考える時のコツのひとつに「後ろに続く設問からヒントをもらう」というテクニックがあります。
受験生にとって未知の知識を使って入試問題を作ろうとする場合、先生はどのように設問を作るでしょう?
面白そうな素材を選び、小学生が正解を出せそうな設問をいくつか考え、そこから大問全体の構成を組み立てるのではありませんか?
つまり大問を構成する設問が、出題した先生の「こういう事を答えて欲しい」という世界観をあらわしているのです。 そのため、並んでいる他の設問で尋ねている内容がヒントになってしまっている場合が見受けられます。
今回のこの問2は、問1の大きなヒントになっていると思います。
私の解答例
市販のチョコレートの5型の結晶が結晶核として成長のリーダーになるので、結晶核を作るためのテンパリングが不要となるから。
ちなみに四谷大塚さんの解答例
すでに5型の結晶になっている市販のチョコレートが核になり、そのまわりに5型の結晶が増えていく。
設問で尋ねているのは「テンパリングが不要になる理由」ですので、この解答例のように書くなら前半だけで良いと思います。
【問題】
問3 非ニュートン流体の説明文の空欄を埋める記述を選択せよ。
ボールが回転すると[ ]ため、インクが出てきて字が書けます。
ア 遠心力によって、ふり落される
イ インクが温められる
ウ インクに空気がまざる
エ インクに力が加わり、“粘り気”が弱くなる
オ インクに力が加わり、“粘り気”が強くなる
【解答と解説】
これはボールペンのペン先で何が起きているか「想像」できれば正解を出せますね。
保管している間は、自然にインクが流れ出さないように粘り気は強くあって欲しく、いざ文字を書く時にはボールの回転でインクに強い「剪断力(せんだんりょく)」がはたくことで粘り気が弱くなり、カスレの無いなめらかな文字を書ける訳です。
よって正解は
エ インクに力が加わり、“粘り気”が弱くなる
このような性質のことをチキソトロピーといいます。 身近な物ではマヨネーズがそうです。容器から押し出すときには流体のように流れ、押し出した後は自身の重さくらいには耐えて形が変わりません。
逆に力を加えると粘り気が増える性質をダイラタンシーといいます。 米村でんじろう先生の水と片栗粉の混合物による「水の上を走る実験」を見たことがあるのでは?
上に書いたシリコンウェハー用のインゴット製造とは別の時期ですが、アルミナセラミックの製造研究をしていた時にはスラリー(水との混合物。和名は泥漿)のチキソトロピーやダイラタンシーの制御で苦労しました。
サブミクロンのアルミナ粉末と糊としてCMC(カルボキシ・メチル・セルロース)などを混ぜた混合スラリーが、ボールミルを止めたとたんにネバーっとしてしまっていたのです。 これをサラサラに改善する「ある有機物」を発見した時には祝杯を挙げた思い出があります。
【問題】
問4 長期保存したチョコレートの表面が白くなる可能性のある季節と、その理由。
【解答】
夏
最高気温が35度を超えた場合、とけた部分が固まるときに白い6型の結晶ができるから。
ちなみに四谷大塚さんの解答例
気温が高くなることで部分的にとけ,固まるときに6型の結晶ができるから。
基本的に書いている事は同じですが、私の解答例では白いのは6型の結晶である事と、それが出来るのは35度で固まる場合であるという問題文の表で提示された数字を織り込んでいます。
子どもの頃チョコレートは貴重なお菓子で、板チョコを少しずつ少しずつ割って何日もかけて楽しんでいました。
夏などに表面に現れる白い模様を、長い間ずっと油脂が解け出たものだと思っていました。
チョコレートはカカオ豆をいったん粉末(カカオマス)とココアバター(油脂分)に分離し、カカオマスに適量の砂糖、ミルクおよびココアバターを混ぜたものです。
カカオマスとココアバターの混合比率から、どうしてもカカオマスの方が余り、これを単品で販売しているのが「ココア」です。
子どもの頃に見ていたアニメ「オオカミ少年ケン」の提供が森永ココアでした。
当時、ココアはなんとなく粉っぽくて好きというほどではなかったのですが、これは今思うと「少量のお湯で良く練ってからのばす」という飲み方の基本をしていなかったせいですね。 もったいないことをしました。