その1では、SAPIXの復習主義のよる授業の魅力と、知的な発見をするというのが心躍る体験であり、御三家、難関校の合格者を輩出する塾であるというのも良く判る、というところまで書きました。
それについて行ける子にとっては。
それでは、ついて行けなかった子はどうすれば良いのでしょう?
ついて行けない原因はいろいろなパターンが有ります。 一時的な不調で遅れが出たとか、高学年での入塾とか、当初は生徒本人の成長が追いついていなかった、などなど。 ですが、どのような原因であれ、追いつき・追い越すためには標準カリキュラム以外の何らかの取り組みをしなければなりません。 考えられるのは次の二つのパターンです。
① 授業前に「予習」をさせる
② 授業後の「復習」にテコ入れをする
【授業前に「予習」をさせる】
オークションではSAPIXの教材が多数出品されており、中には数万円で落札されているものすら有ります。
出展:失念。 (終了済みの事例から)
教材は授業に出席すればもらえる訳ですから、中古品を買う目的は予習以外に考えられないです。 ですが、教材だけで予習の効果を出すにはかなりの限定条件が付きます。
限定条件とは
その教材の元の持ち主が自分のお子様と同レベルであり、しかも授業中のノートの取り方が抜群に上手で、かつまた授業で演習した順番までメモしてあること・・・ だけでなく、その中古教材を見ただけで当時の指導の流れや意図を推定できる人がそばに居ること。 要はSAPIXの授業を再現し得る情報が詰まっていることです。
説明します。
授業で使う教材「デイリーサポート」にはA4サイズの解説が付き、復習で使う教材「デイリーサピックス」には冊子の後ろのほうに解説ページがあります。 これを見ながら演習をさせれば、授業を受ける前に予習ができるはず、と思いますか。
できません。
正確に言えば効果の出る予習はできません。
それらの解説はすごく省略されています。 授業で教える解き方と違う場合も多いです。 さらにはデイリーサポートとデイリーサピックスで解き方が異なることすら有ります。 教材としてはそれで問題ありません。 なぜならSAPIXの教育の本質は教室での指導にあり、教材に付属した解説は解き方の一部を忘れてしまった子が習った事を思い出すヒントに使うだけで良いのですから。
従って、中古の教材を買っても効果的な予習には使えません。
ご自身のお子様と同等のクラス(=授業で扱う問題範囲が同じ)かつ、ノートを書く能力が抜群、という書き込みがあれば数万円の価値はあるかもしれませんが、そんなことはまれでしょう。
では他塾による解説資料は?
こんな裁判がありました。 SAPIXの教材やテストの解説を受験ドクターが勝手におこなっていたとしてSAPIXが受験ドクターを訴えた裁判です。
topicer.blog.jp判決は「原告の請求をすべて棄却する」、つまり受験ドクター側の勝訴でした。 争点についてはリンク先のブログを見て頂く事として(私の好きなブログのひとつです。この2月末で更新停止とのこと。残念です。)、SAPIXの教材に対する解説サイトや教材に法的なストップは掛からなかったということです。
このような解説コンテンツは予習に使われているのでしょうか、復習に使われているのでしょうか。 まず授業の予習のために使うケースを考えてみました。
生徒の一部が他塾の教材で予習して来ると、何が起きるか。
クラスの中に「別の塾の解法」を予習して来た生徒が居ると、相当に授業の運営に障害が出るのではないかと私は想像します。
具体的には、
(授業準備からの講師の動きを想像してみました)
① これまで生徒が学んで来た解法と、今後学ぶ予定の解法を念頭に置いて、
② 今回の授業で何を気付かせるか綿密な設計を行い、
③ それに必要な演習の流れを今回の教材から計画して授業準備をしても、
④ いざ授業で演習をさせ「できた人?」と手を挙げさせ、解き方を見ると別の解法。
⑤ 講師の心の声(うわぁ、こっちの解き方使ったか。)
というシーンです。 ベテランの講師ならば、このくらいの揺らぎは修正するでしょうけれど、その修正のせいで、あと一問できたはずの演習が時間切れで出来なくなるかも。
生徒の立場から考えても、このような「予習」は危険性が高いです。
予習した解き方と授業での解き方が一致していれば良いのですが、そうでない場合は演習の段階で「解けてしまう」と、その後の講師の説明が頭に入って来ないという危険性です。 なにしろ自分はもう「解けてしまった」のですから。
とりまとめると、
SAPIXにお通いの場合、私は「予習」には反対です。
やはり塾の基本方針通り、復習を根幹にすえて考えるべきだと思います。
という訳で次回の投稿は
【授業後の「復習」にテコ入れをする】
の考察です。