複雑に見える力学の問題は要素に分けて順に考えることが必要です。 そのためには問題の図に上手に書き込みをするのがコツになります。 「力学が苦手」と言う生徒に目の前で問題を解かせてみると、腕を組んで考えているだけという者が多いです。 力学の問題の例として世田谷学園の2011年(平成23年)の第2次試験から 大問4 です。
【問題】
液体中にある物体はその物体がおしのけた液体の重さだけ軽くなります。 このことを使って、あとの問いに答えなさい。 ただし、水1cm3 あたりの重さは1gとし、ばねや糸の重さは考えないものとします。
図1(図は省略)のように、水の入った水そうを台はかりの上にのせ、重さ280g、底面積 10cm2、高さ15cm の円柱のおもりAをばねにつるして水に完全にしずめました。 ばねは 10g のおもりをつるすと 1cm のびます。 水そう内の水の重さ、水そうの重さはそれぞれ 1900g、 850g です。
問1 ばねののびの長さは何cmですか。
問2 台はかりの示す値は何g ですか。
図1の装置からばねをはずし、動かっ車、定かっ車、おもりBを加えて、図2のような装置を作ったところ、円柱のおもりAは一部を水面上に出してつりあいました。 このとき台はかりの示す値は 2870g でした。 また、動かっ車の重さは 80g です。
問3 円柱のおもりAは水面上に何cm 出ていますか。
問4 おもりBの重さは何g ですか。
【解説】
問1 導入問題ですので詳しい解説は略します。 答えは 13cm
問2 水の重さ、水そうの重さに円柱に働く浮力を足し算するだけです。
1900(g) + 850(g) + 150(g) = 2900(g)
で、ここからが今日の解法紹介のメインです。
問1と問2でわかった数値を含めて問題の図に数値を書き込んでいきます。
大問を解く途中で得られた数値は、それを次の設問で使ったりヒントになっていたりする場合が多いので、かならず書き込んで行くのがポイントです。
問3 台はかりの示す重さが問2の 2900g から 2870g に 30g 軽くなったわけですから、円柱はそれに相当する体積の分だけ水から出たことになります。
よって、それを円柱の底面積の 10cm2 で割って、 3(cm)
力学の問題で滑車や輪軸など「糸」が登場する場合、そこに働く力は矢印で書かず、糸に黒点をうって力の大きさだけを書きます。 糸には張力(糸を引きちぎろうとする力)しか働かないので、その大きさだけが重要なのです。 力学の問題ではほとんどの場合に力の向きが重要になり、向きを矢印で書く癖がついてしまいますが、滑車の問題に関しては頭を混乱させる原因です。 糸が登場する問題ではほぼかならず作用・反作用を使って考える局面が登場するので、引きちぎろうとする力としてイメージすることがポイントです。
また、滑車はその両側の糸にかかる張力が必ず同じです。 もしも張力が違っていたら、糸はカラカラカラと滑車から抜けてしまいますから動滑車・定滑車を問わず必ず同じになるわけです。 両側の糸に黒点を書き込んで、そこに張力の数字をどんどん書き写して行けば滑車の問題は簡単に解けてしまいます。
この2つのルールを使って図に書き込みができれば、次の問4は難しくありません。
問4 円柱のうち水に入っているのは問3の 3cm を除いて 12cm なので、円柱を吊っている糸にはたらく張力は、重さから浮力を引いて 280g - 120g = 160g
その 160g と動滑車の重さ 80g を2本のひもで吊っているから、糸の張力は 120g
その糸の張力と動滑車を2本のひもで吊っているから、糸の張力は 100g
定滑車は力の向きを変えるだけなので、答えは 100g
世田谷学園の入試問題はこの後に、水と油の2層になった水そうに円柱を入れる設問が続きます。 こちらは浮力の本質的な理解を問う良問ですので、いつかまた紹介したいです。