フェーン現象に関する問題です。 そのしくみを「おいしい野菜炒めの作り方」で説明します。 本郷中学 2013年(平成25年) 第3回入試 理科 大問1番 <地学> <気象> <フェーン現象> <水の三態>
【問題】
次の図2のように、太平洋側の高度0mのA地点から、26℃の空気の塊(かたまり)が山脈の斜面に沿って上昇し、高度600mのB地点で雲を生じ、雨を降らせながら高度1800mのC地点で山脈を越え、雲は消えました。 その後、この空気の塊は日本海側の高度200mのD地点に達しました。
B、C、D地点の空気の塊の温度をそれぞれ求めなさい。 ただし、空気の塊の温度変化は100m高度が上昇すると、雲が生じていないときは1℃低下し、雲が生じているときは0.5℃低下するものとします。
【解説】
問題文の末尾に書かれた温度変化に関する説明をこの問題の図に合わせて書き換えると、
・ A地点からB地点までは、雲が出来てないので100m上昇あたり1℃低下する。
・ B地点からC地点までは、雲が出来ているので100m上昇あたり0.5℃低下する。
・ C地点からD地点までは、雲が出来てないので100m下降あたり1℃上昇する。
こうなります。 ひととおりの文章読解力があれば、温度の低下と上昇を読み替えて正しい計算ができるはずですが、その時になぜそうなるかという仕組みが頭の片隅に残っていれば勘違いで失点する危険性を下げられます。
なぜ雲ができるかどうかで温度の挙動が変わるのか? それを体感的に教えるために話しているのが「おいしい野菜炒めの作り方」です。
・ おいしい野菜炒めを作るコツは、ガンガンに強い火力で一気に熱を通すこと。
・ でも熱々のフライパンに単純に野菜を放り込むと、フライパンに触れた所が焦げるだけでそれ以外は生のままになったりする。
・ そんな時には、どうしたら良いと思う? フライパンをあおる?それも良いけれど、他には?
・ その通り! 大さじで2、3杯の水を入れると湯気がジョワァって上がって全体に熱がとおせるんだ。
・ では、なんでそうなるか分かる?
ここまでを一気に話したあと、「氷」「水」「水蒸気」を矢印で三角形に結んだ水の三態の図を描きます。
・ 水から水蒸気に行く矢印、何をしたら液体の水は気体の水蒸気になる?
・ その通り! 熱を加えれば水は蒸発して水蒸気になるんだ。
・ では逆に水蒸気が水になる時に何が起きるか、分かる?
・ 熱々のフライパンで水がジョワァって蒸発する。 水蒸気が上にあがる。 そこにはまだ冷たい野菜がある。 野菜の表面に・・・そう、露をむすぶ。 その時に水蒸気は溜め込んでいた熱を野菜に渡す。 で、一気に野菜に熱がとおってシャキシャキのおいしい野菜炒めができる。 こういうことが起きてるんだ。
空気などの気体はギュって圧縮すると温度が上がり、逆にブワって膨張させると温度が下がります。 温度が上がる身近な例は自転車の空気入れ、勢い良く続けて空気を入れていると空気入れの下の方がアチって言うくらい熱くなります。 温度が下がる例はエアコン、フロンガスを機械の中でいきなり膨張させることで熱交換器のフィンを冷やして冷たい空気を作っています。 この温度の上がり下がりが、雲ができないときの100mあたり1℃に相当するものです。
では雲ができるときは? 湿った空気が山肌に沿って風で押し上げられると、標高の高いところは気圧が低いので膨張し、温度が下がります。 温度が下がると水蒸気は水や氷の粒になる。 ってことは、そこで溜めていた熱が放出されるので100m持ち上げても温度は0.5℃しか下がらない、そういう仕組みなのですね。
仕組みがわかってしまえば、計算を間違えることは少ないと思います。
【B地点の温度】
A地点の26℃の空気が、雲を作らずに600m上昇するときの温度です。
26 - ( 1 × 600 ÷ 100 ) = 20℃
【C地点の温度】
B地点の20℃の空気が、雲を作りながら600mから1800mまで上昇するときの温度です。
20 - ( 0.5 × { 1800 - 600 } ÷ 100 ) = 14℃
【D地点の温度】
C地点の14℃の空気が、雲を作らずに1800mから200mまで下降するときの温度です。
14 + ( 1 × { 1800 - 200 } ÷ 100 = 30℃
実は私が<水の三態>とおいしい野菜炒めの作り方の話をするのは、<夕立の雨粒はなぜ大きいか>との関連で話すことの方が多いのですが、今回はちょうど良い過去問が有ったのでフェーン現象にからめて書きました。
<水の三態>は<気象>の理解にとても重要ですので、他の話題、たとえば「なぜモンゴル帝国は遥か欧州まで版図を拡げられたのか」などという話とからめて再確認させたりしています。