駒澤塾:中学受験の算数・理科

中学受験の算数・理科を中心に書いて行きます。駒澤が旧字体なのは検索をしやすくするためです。

上手な暗記法:解法の引き出し

SF作家の小松左京さんはとても博識な人でした。 膨大な情報をどのように管理しているのか、どこかのインタビューで「僕の頭の中にはたくさんの引き出しが有って、必要になった時にはスっとそれを引っ張り出すと中に関連情報が見えるんだ。」と答えていました。 今日は単元の名前で解法の引き出しを作りましょう、という話です。 

 小4から小5にかけての頃に来る算数に関する相談のひとつに 「文章題を解く時にとりあえず知っている解法に目に付いた数字を入れて計算して、きれいな数字になったら満足してしまう」というものがあり、これに対する回答として 「やり方だけ丸暗記するのでなく、よく理解して解くように誘導しましょう。」 というものを良く見ます。 確かに仕組みをきちんと理解して解き方を身に付けて行くのは基本です。 それでも解けない子は? 残り時間が数ヶ月になった時点でも「理解」と「気付き」を求めるのかな?

 

ふりかえって自分はどうだろうと考えると、算数の問題を見た時にまず頭に浮かぶのは 「今年は<ニュートン算>か・・・おっ、<整数の性質>との複合問題だ!」 といった単元の名前です。 つまり、問題を「○○算」というグループ(引き出し)で管理している訳ですね。 どの塾でも、どの参考書でも単元の名前を使っていない物はありません。 ですが、その単元のまとめ方が粗すぎると思っています。 単元の名前はもっと活用できるはず。 

 

例えば生徒が新しい単元を学ぶ場合、数多くの演習を解いて行き、教えてもらった解き方から法則やパターンを自ら発見して行くというカリキュラムは、受験まで十分に時間のある時期には私も行います。 ただ、その際に必ず単元の名前も細かめに生徒に示してしまいます。 たとえば<旅人算・直線・出会い>とか<平面図形・相似・台形に補助線>など。 示すだけです、無理に覚えさせはしません。 

授業や問題の手書き解説で単元の名前を示すのは解法の丸暗記ではありません。 解法の引き出しを作らせるのが目的です。 解法の引き出しが出来て来るといくつものメリットが生まれます。 

 

【メリット1:鳥瞰図が見える】

たとえば<時計算>の導入授業では、準備として<旅人算・円周・角速度を使った追いつき>を生徒のレベルに応じた方法で導入し、分針と時針の1分間あたりの動く角度を各自に計算させた後あたりで問題の基本的なバリエーションを一覧にして見せてしまいます。

<時計算:時刻から角度を求める問題>

<時計算:角度から時刻を求める問題:90度になるのは何分後?>

<時計算:角度から時刻を求める問題:長針と短針が重なるのは何分後?>

 <時計算:角度から時刻を求める問題:一直線になるのは何分後?>

<時計算:角度から時刻を求める問題:二度目に90度になるのは何分後?>

 田舎の道は遠くに感じると言いますけれど、それは途中の目印が無いからです。バリエーション一覧を最初に見せることで「やり切れる感」を引き出すのが目的です。 逆に算数が得意な生徒には後で出て来る難易度の高いバリエーションを予告することもあります。 <左右対称になる時刻>、<文字盤の数字が落ちて角度しか分からない時計>、<秒針まで考える時計算>や先日の立教新座の時計算の問題などですが、 「基本パターンが瞬殺できるようになったら変わった問題もやらせてあげるよ」と伝えて目の色を変えて基本演習に取り組む生徒は、伸びます。

 

 【メリット2:学習の効率化】 

上の<時計算>の例のように「基本的な考え方を教えてもらった後に数多くのバリエーションを身に付けて行く」という道筋が頭の中にできるのがひとつ。

それに加えて単元名を使うのは単元同士の類似性を示すのにも有効です。 例えば、学校に遅刻したり早着したりする問題を教えるとき、「これ、速さを使った差集め算なんだよ」と教えると理解も定着も早いです。 

 

【メリット3:苦手の克服に役立つ】

集団授業の塾で中学受験の算数を教え始めた最初の年に、私は自作のテストを使って生徒ひとりひとりに対して弱点マップのフィードバックを始めました。 小6の夏前にこれをやると「基本的な解き方すら身に付いていない」単元がびっくりするくらい残っていることに生徒自身が驚きます。 ショックを受けている生徒に私が言うのは、

「良かったじゃないか。 今の時点で弱点が洗い出せたんだ。 12月ころに弱点がぼこぼこ見つかったら大変だけど、この夏に弱点をつぶせば9月の模試で偏差値はぐっと上がるよ。 だって他の受験生が『算数の』勉強をやみくもにやっている間に、君は『弱点を克服する』勉強に集中できるんだよ。 いっしょに頑張ろう。」

 

解法の引き出しを作ろうという書き方で始めましたけれど、私がやっているのはその引き出しの中に仕切りを作って整理していることかも知れません。 一般的な「○○算」というくくりだけというのは、その引き出しの中にグシャグシャっと知識やら解法やらが放り込まれた子供のオモチャ箱の中のようなイメージです。 それを机の上にぶちまけて、そこから必要な知識をパっと拾い上げられる頭の良い子ならそれで十分なのかも知れません。 

 

2020-07-05 追記:関連記事です。

komazawajuku.hatenablog.com

 

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