図形が苦手だと言う生徒に扇形をフリーハンドで書かせてみると、多くの場合まともに書くことができません。
今日は自分で図を書くことの目的と、上手に書くためのコツを説明します。
中学受験の入試では、定規やコンパスなどの使用が禁止されている場合があります。
使用が禁止されている場合、「紙の上に書いて考える」ことをしようとするとフリーハンドで図を書かなければなりません。
4年生までの算数なら腕を組んで考えて解けるかも知れませんが、入試の問題で腕を組んで考えるだけで解ける子は「書こうと思えばサッときれいな図が書ける子」だけです。
「紙の上に書いて考える」目的は二つ、解き方を思い出す糸口と、マジックナンバーオブセブン対策です。
【解き方を思い出す糸口】
言葉とか数式とかを記憶するのは脳の大脳新皮質という部位です。
いっぽう、画像とか図を覚えるためには、体積がはるかに大きい大脳全体を使えます。
何かを覚える場合に、画像とか紙の上の図などの形で情報をイメージとして取り扱えると、とても有利です。
「図形問題が苦手」という場合、原因をたどってみると「必須の知識を覚えてない」ということが多いです。
それらの絶対必須の図形知識を覚えようとする時にも「自分で図を書いてみる」ことが重要です。
【マジックナンバーオブセブン対策】
人間の脳が一度に処理できる情報は、最大で7個です。
入試ではしばしば7個を超える情報を取り扱う出題があります。
たとえば算数なら、動きの複雑な旅人算、数量の有る売買損益、そして図形の問題などにもたくさんの情報を取り扱わせる問題が出題されます。
これへの対策は、「頭の中だけで考えようとしない」ことです。
つまり、登場する情報を「紙の上に書いて整理する」という作業が重要です。
さて、覚える時にも、問題を解く時にも、紙の上に書くという作業が重要と書きました。
これ、あたりまえのこと、だと感じませんか?
ところが子どもにとっては、これがあたりまえのことじゃないんです。
試してみてください。
紙の上に点を二つ書いて、次のような指示をしてみましょう。
「点Oを中心、OAを半径とし、中心角が120度の扇形を、コンパスを使わずになるべくていねいに書いてみて。」
お子様は書けましたか?
書けたなら良いです。 ここから下は読まなくて大丈夫です。
でも、図形が苦手という生徒の多くは、まともな扇形を書けないはずです。
という訳で、中心角が120度の扇形を、なめらかな円弧のカーブを含めてフリーハンドで書くコツを箇条書きの形で書きます。
定規もコンパスも使いません。 使うのは鉛筆と消しゴムだけです。
手順1:点Oと点Aを直線で結ぶ。
手順2:OAのおよその長さを、自分の指で調べる。
手順3:点Oと点Aの両方から等距離になる点Bを書き込む。
手順4:その点から左にその長さ離れた点を書き込み点Cとする。
手順5:点Oと点Cを直線で結ぶ。
手順6:点Oからその長さ分離れた点をBCを含め数個、書き込む。
手順7:それぞれの点に、点Oからの線と直角になる短い線を書き込む。
手順8:短い線同士を、できるだけなめらかなカーブで結べば完成。
以上です。
この「中心角が120度の扇形をフリーハンドで書く」という手順の中には、大切な図形の知識がいくつも入っています。
・正三角形の性質、三辺の長さが等しい
・正六角形は正三角形の集合であること
・正六角形の内角は120度
・円や扇形の孤とは中心からの距離が一定な点の集合
・半径と弧は必ず直角になる(正確には半径と接線ですが)
最後の2項目について知識の丸暗記ではなく、手順として暗唱させているのが何度も書いて来たこれです。
手順1:中心をさがせ。
手順2:半径をさがせ。どんどん書き込め。
手順3:中心角をさがせ。
ちなみに、
ここに書いた8段階の手順を見て、「くどい」って感じた方も多いはず。
その方は、忘れています。
手順をきっちり書き出すということを、自分自身は中学高校で何百回、何千回も体験して来たのだということを。
小学生にとって何かの手順を誰かに伝えるというのは、経験したことの無い作業です。
この件については長くなるので稿を分けますけれど、教えるということは、「相手が何を知らないか」を把握するのが最初の一歩、基礎の基礎です。
教える側が「生徒が何を知らないか」を充分に考えずに授業をしたら、生徒達から返って来るのは「わからない。」の大合唱になるのがあたりまえです。
中学受験で「何を」教えるかという内容は、大人が頑張れば難しくはありません。
難しいのは「生徒が何を知らないか」を把握して、適切な指示を出すということ。
このブログで「私にとって生徒は最高の先生です。」と繰り返し書いている理由です。