オークションで中古に万円単位の値がつくこともあるこの本は、再出版されないのでしょうか。 どのような内容なのか知りたい方が多いと思いますので、ちょっと詳しく記事にしました。
【全体の構成】
付録の模型は、透明なプラスティックで組み立てる立方体形の容器の中に、切断面の形をした13種類のカードを切断の条件指定に合わせてストンと入れるという物です。
これと75ページのテキストが同梱されています。
【付録の切断面模型】
透明なプラスティックで組み立てる立方体形の容器は、洋菓子店でクッキーの詰め合わせを入れて売っているようなペナっとした素材(PET樹脂?)です。
展開図の形で封入されている物を自分で組み立てて添付のシールでとめるのですが、容器の素材が薄いだの、シール三枚ではとめられないだのといった感想がamazonのコメントに見られました。 書店経由で流通させるために組み立て式になるのは仕方が無いとしても、アクリルかスチロール樹脂製にしてパチンパチンとはめられるようにしていたら、ずいぶん印象が違ったかも?
【テキスト冊子】
A5サイズ、上端の短辺をとじた大福帳のような75ページの冊子です。
(手元にある現物の写真です)
P.1からP.10 『~おうちのかたへ~』
以下のような内容が書かれています。
★教材の概要の説明
★中学受験最前線~その傾向と対策~
★「立方体の切断」とは、どんな問題?
★教材の組み立て方
★問題の演習の進め方
P.11からP.24 『ふぞく教材を使う問題』
立方体の辺上の点が3個指定され、それを通って切断したときの切断面の形を尋ねる問題が1ページに2題ずつ、全部で14題あります。
ページをめくると正解(出来る切断面の形)および、対応するカードの番号が示されていますので、透明容器の中にカードを入れることで切断の様子が体験できます。
気になったのは、13種類のカードのうち使われない物があること。
①正三角形(大) ②正三角形(小) ③二等辺三角形(高) ⑤二等辺三角形(低) ⑧長方形(中) の5種類は登場しません。
④正方形は3回登場し、⑨正六角形と⑪台形も2回ずつ登場します。
改めて確認してみると、解答のページには正解の図形とカードの番号だけが示されており、切断面を求めるための手順やルールはいっさい書かれていませんでした。
《ご参考:立方体の切断の解法手順》
1:同一面上の2点を切断線でつなぐ
2:平行な面上の切断線は必ず並行(相似形を使う)
3:行き詰ったら立体の角出し(つのだし)
ルールを覚えるのではなく、切断面が通る3個の点から「イメージとして」切断面の形を作り出してしまうスキルを訓練するカリキュラムのようです。
また、テキストの最後まで解説を確認してみると、解説の文中に登場するのは手順ルールの2番「平行な面上の切断線は必ず平行」だけでした。
1番は明らかなので書く必要が無いにせよ、3番の立体の角出しテクニックを教えないというのは興味深いです。 たしかに変にルールを丸覚えさせるより感覚で慣れさせた方が早い気もしますが、立体の感覚が育ってない子には難しい気もします。 このカリキュラムで五角形や六角形になる切り方が解けるようになったのか、複数の経験者のお話が聞けたら嬉しいです。
P.25からP.38 『基礎問題』
切断に関する問題は無く、表側に問題、ページをめくった裏側に解説という形式で図形に関する基本的な知識を問う問題が11題ならんでいます。
問題1から問題5までは平面図形の面積の求め方。
登場する図形は、長方形の集合体、平行四辺形、ひし形、台形、三角形です。
問題6から問題11までは立体図形の体積や表面積の求め方。
登場する立体は、立方体、直方体、三角柱、四角柱、四角錐です。
P.39からP.58 『練習問題』
立方体の切断に関する問題が表裏形式で11題ならんでいます。
11題のうち3題は実際の入試問題(大谷中、昭和学院秀英中、城北中)を一部改変したものです。
問題の内容
★切断面の形から見取り図に切断線を書き込む
★3点を指定されて切断面の形を答える
★立方体の切断面に登場しない形を選ぶ
★切断された立体の表面積の差を計算する
★切断された立体の体積を計算する
★切断面を移動させたときに出来る形を順に答える
★切断線の通る位置を展開図上に書き込む
★特殊な三角錐(注)の表面積、体積、切断面を底面としたときの高さを求める
★正四面体になる切断の体積を計算する
(注)特殊な三角錐というのは私が指導する時に使っている呼び名で、立方体の2つの辺の中点と一つの頂点を結んで切ったときの三角錐です。 展開図が正方形になること、その正方形の一辺は元の立方体の一辺と同じ長さになること、4個の面の面積が1:2:2:3になること等の特徴があり、入試での頻出問題です。
気になったのは、13種類のカードのどれに該当するかという記述が無いこと。
切断面を移動させたときに出来る形を答えさせる問題で丸数字が正解欄に有ったので、カードの番号かと思ったのですが、単純に問題文中に書かれた選択肢の番号でした。
せっかくの模型教材と対応を取らないのは、もったいないと感じます。
P.59からP.74 『実践問題』
実際に出題された入試問題とその解説です。
収録された学校名は、「桜蔭中」、「清風南海中」、「洛南高附中」、「駒場東邦中」、「早稲田佐賀中」、「大阪星光学院中」、「開成中」、「灘中」でした。
こちらの解説にも13種類のカードとの対応は有りませんでした。
結局、13種類のカードを使うのはテキスト冒頭の『ふぞく教材を使う問題』だけで、カードのうち5種類についてはテキスト中で一回も使われない物でした。
テキストの6ページには次のような記述があります。
切断面は、正方形や長方形、三角形、五角形、六角形など13もの図形になります。「ふぞく教材」には13の切断面すべてが網羅されているので、どんな問題にも対応できます。
昨日の記事に載せた私の手書き教材でも切断面が13種類で一致していたので見落としていたのですが、改めて対応を確認してみたら、この教材には「平行四辺形」「(等脚台形でない)ただの台形」「ただの三角形」が抜けていました。
細かいことですし、それでこの教材の価値が減じるとも思いませんが、「網羅しました」と言い切るなら、再出版の際には直して欲しいと希望します。
ちなみに、
上の私の手書き資料でも「長方形」が重複していますので、立方体を切断して出来る断面の「名称」は、正しくは12種類だと思います。
このテキストはなぜ再出版されないのでしょう。 「浴びるように演習をする中で自分自身で解法を見つける」という塾で、立方体の切断が苦手で、しかも原因が分からないという生徒にとって、この教材は平面図形の基礎から見直しをできる優れたものだと思います。 再出版をして欲しいですね。
追記:再版されました。amazonへのリンクを貼っておきます。
さて、
立体の切断に関しては以前よりちょっと意識に引っかかっている点があったので、今回の機会に2015年度の中学入試169校分の問題を分析してみました。
明日の記事で公開します。