駒澤塾:中学受験の算数・理科

中学受験の算数・理科を中心に書いて行きます。駒澤が旧字体なのは検索をしやすくするためです。

在宅時代の学力診断はどうなる?その3(完)

一連の記事の3回目です。 今回で「在宅時代の学力診断の形」の予想までたどり着く予定です。 

 

前回の「その2」ではこれからの形を予測する前に現状の姿として入試改革が進もうとしている方向を整理してみました。

要素となるのは三点、「読み取る力」「伝える力」「創り出す力」でした。

 

 

さて、

一箇所に集めてのペーパーテストと在宅でのテストでは何が違うのか?

当然ながら即座に頭に浮かぶのは『不正ができる』ということですね。

1: 検索をして答えを探せる

2: 画面外からサポートチームがサインを出しても判らない

また、通信回線や情報端末などの性能や、それを使う能力も問われることになります。

3: 通信速度や安定性の差で有利不利が出る

4: 画面の大きさなど端末の性能で有利不利が出る

5: キーボード・リテラシーが必要になる

 

逆に在宅でテストを受けることでこれまでに無かったメリットも出て来るはずです。 

例えば面接。 

面接で受験生ひとりを何人もの面接官が取り囲んだら受験生は萎縮しまくりの圧迫面接になってしまいますが、遠隔で行えば一対一の面接の映像を何人かで見ることで評価の質を上げることができるはず。 

 

 

それでは 三点の要素「読み取る力」「伝える力」「創り出す力」を発想のスタートとして何が出来るか考えてみましょう。

 

 

(読み取る力)

情報に対する処理能力について(その2)で「膨大な量の情報から必要な物を制限時間内に読み取る能力」と書きましたが、これを更に2つの要素に分解すると「情報量の多さ」と「処理速度の速さ」に分けられます。

 

処理速度の速さに注目したら、こんな選考試験は考えられないでしょうか。

☆ 画面に問題が表示され、ぎりぎりの時間だけ与えられて選択式の解答をする。

☆ 検索する暇も無いくらいのスピードで画面の問題が切り替わる。

☆ 設問の数は従来のペーパーテストより遥かに多い。

 

たぶん、私のこの発想の元ネタは萩尾望都さんの漫画「11人いる!」の冒頭シーンの記憶だと思います。 

f:id:komazawajuku:20200502015233j:plain

f:id:komazawajuku:20200502015250j:plain

 

(読み取る能力)の要素を「情報の量」から「処理の速度」に振り替えてしまいましたが、 「情報の量」の要素は後で登場します。

 

選択式の問題を次から次へと送受信して行くというこの方法は、もちろん幾多の問題を含んでいますが、現行のペーパーテストから切り換えた場合のメリットも有ります。

まず第一に、設問数がとても多くなるので出題された知識の偏りによる運不運が減ります。 たとえば一問あたり20秒弱で60分やれば200問でき、理科なら4個の単元ごとに50問を設定できます。

第二に、視覚障碍者もほぼ同じ土俵で勝負できるようになります。 以前、視覚障碍者が自動読み上げソフトを使って文章を「読む」シーンをテレビで見たのですが、凄まじい速さでした。 慣れると早回しのような合成音声をきちんと聞き取れるようになるそうです。 

選択式にすることで入力がシンプルになりますから、キーボードリテラシーの制約からもかなり解放されます。 パソコンでいえばキーボードのテンキー部分だけで用が足りる訳です。

 

《ここから脱線・・・IT系の人向きかも》

脱線その1:

自動読み上げソフトを使うのはテキスト埋め込み型のPDFで出来ると思いますが、出題側にはWebサイト全体のデザインは注意して欲しいです。 安易にフレーム分割を多用すると視覚障碍者には目的の情報にアクセスするまでに無駄な手間を使わせることになりかねません。 サイトで伝える情報の全体像を構造化せずに、とりあえず全部見せとけ、というデザインのWebサイトは嫌いです。 きちんと設計すれば健常者にも見やすいサイトになるはず。

脱線その2:

まだGUIとかマウスなどのポインターが使われていなかった頃、普通のおじさんが使う業務管理アプリケーションに「Y/N」を入力させるソフトのなんと多かったことか! 私が率いていたチームでは「Y/N」を使わせず、基本的にテンキーだけを全ての操作に使わせていました。 今はタッチパネルやマウスを使ったGUIが普通になっていますが、視覚障碍者のためにも数字キーを使って選択肢を選べるように設計されることを願っています。 

 《脱線、ここまで》

 

画面上で選択式の試験を実施した場合、試験終了時には採点も終了しているだけでなく、正答率のデータや、受験生の各設問に解答した秒数などのデータも取得可能です。 

それらのデータは受験生の脇にサポートチームがついて正解を教えるという不正に対するチェックにも使えるはずなので、後で具体策について触れます。 

 

通信や端末のトラブルなどに対しては、試験を複数回設定してその中の最高点を採用するという対応が考えられ、更に単純な点数ではなく各回の偏差値を判定に使えば難易度のブレによる不公平も減らすことができます。

 

 

(伝える力)

人に伝える能力の訓練や評価が、日本では不足して来たと感じています。

今は違うのかも知れませんが、小学校で人に何かを伝えるということについての指導で私の記憶に残っているのは、作文の時間に「自分の気持ちを正直に書きましょう」くらいしかないです。 また、人前での発表の仕方、明瞭な声の出し方などの指導を受けた記憶もありません。

 

人に伝えるとは、紙に書くことだけではありません。

アメリカの小学校では「Show and speak の授業」が有るというのをスヌーピーとチャーリーブラウンの登場する漫画「ピーナッツ」で見ました。 

フランス人は話すことを重視し、詩の朗読を正しい発音・明確な発声でできないと小学生が落第することすら有ると聞きました。 

 

人は何のために勉強をするのか? 試験に合格し、有名校卒の学歴を得た先に何をするのか? つまるところ「何らかの形で人を動かすため」ではないでしょうか。

ならば、人を動かす才や、それを得るための努力をはかる選考も有って良いのではないでしょうか。

 

選抜方法が遠隔になると、これまでの試験会場に全員が集まって行う面接での制限がいくつか軽減されます。 ひとつは上で書いた受験生ひとりに試験官が複数になった場合に圧迫面接になってしまうこと。 面接そのものは一対一にして、その映像を複数の試験官で採点しながら質問事項を面接官の画面に字幕で流せば、圧迫感を与えずに一対多ができます。

 

そもそも現状では選抜試験の運用上の都合で一挙に面接をしていますが、数日に渡って実施しても弊害はせいぜい「今年の面接での質問内容の傾向」が流通することぐらいでは? 遠隔化で一挙に行う必要がなくなるなら、選考にゆっくり時間をかけることが可能になります。

 

これまでの中学受験では面接で不合格になることは一部の例外を除いてほとんど有りませんでしたが、面接やプレゼンテーションで不合格者が出る選抜方法が遠隔で可能になるかも知れないと考えます。

 

 

(「創り出す力)

「正解の無い問題に答えを出す力」と聞くと、中学受験の指導を始める直前まで居た会社の新入社員試験を思い出します。 急激に成長した新興企業だったのですが、株式を公開した後に入社してくる人たちを見て創業メンバーの一人が言いました。 

「みんな有能なんだけどさぁ、なんか物足りないんだよね。

 もし俺が今のこの会社を受けたら、確実に入社できないよね。

 それって、どうなんだろう。」

そして人事の採用担当に指示を出しました。

「答えの無い問題に答えを出せる人、そんな人を採用できる工夫をして。」

・・・採用担当は、頭を抱えました。 

その企業でどのような対応を取ったかは書きませんが、キーワードは面接です。

 

正解の無い問題に答えを創り出すということは、思いつくだけでは足りず、それによって人(の心)を動かして初めて役に立つ訳です。 

 

それを面接の場で正解の無い問題に答えを出させるのは大人でも厳しい課題ですが、6年生が受けるペーパーテストでは適性検査として実施されています。 

 

実は私、適性検査型の入試で出されている「正解が一つでない問題で有り得る答えをさぐる設問」って好きでないです。 理由は、この課題にスピードを求めていることです。 

 

人の心を動かすという行為はリアルタイムか否かで二種類に分けられます。 「会議」と「報告書」ですね。 適性検査型の入試では、「報告書」を「会議」のスピードで解くことを求めていると感じて、それが違和感の原因だと思います。 加えて膨大な情報量を即座に求めるような会議があったら席を蹴って退出するべきで、膨大な情報量を処理するのは「報告書」をまとめるために時間を掛けてやる作業です。

 

この(創り出す力)には即座の対応でなく、熟考して書いた論文の質を求めても良いのではないでしょうか。  検索で必要な情報を引き出すのも現代の知的活動の能力のひとつですし、芝浦工大附属中学の事前課題+作文+面接という「第一志望者入試」は、これの一つのプロトタイプだと思います。 

 

 

(まとめ)

まだまだ書き足りないのですが、既に四千字を超えていますので、いったん切ります。 一つ一つの選抜方式が欠点だらけなのは判っていますが、組み合わせることで解決可能なものも多いはずです。 

例えば、選択式で知識力を問う千本ノック試験でサポートチームを使って不正をした場合、後のオンライン面接の中で「受験生全体の正答率は30%くらいだが本人は正解した設問」をいくつか質問してみれば、かなりの精度で受験生本人に正答を出す知識が有ったかどうか判断できると思います。 

 

(その1)や(その2)を書きながら溜めていたアイデアメモから、受験生が準備しておけることを列挙して本稿を締めます。

 

お気づきのように「発声」を含んだ「話す力」の訓練は必要です。 

後は

☆ 長文を読みながら、要点を正確に把握する能力。

☆ 即座に頭の中の知識データベースを検索し、判断を素早くできる能力。

☆ 類似した事柄から連想の力で解答にたどり着く能力。

☆ 相手が何を尋ねているか把握する能力。

これを速いスピードでこなして行けること。 

(キーワード「スピード」でこのブログを検索してみてください。)

 

更にお気づきでしょうか? 上に挙げた項目って、すでに御三家・難関校の入試で求められていることです。 今やっている学習をしっかりやって行けば、選考の形態が変わっても対応は充分に出来ると考えます。

 

 

このブログはリンクフリーです
リンク(はてな用語で「言及」)に事前連絡は不要です
出典を示して頂けるならコピーペーストも自由にどうぞ。
って言うかリンクやツイートでgoogleの表示順が上がるので大歓迎