駒澤塾:中学受験の算数・理科

中学受験の算数・理科を中心に書いて行きます。駒澤が旧字体なのは検索をしやすくするためです。

在宅時代の学力診断はどうなる?その2

受験生全員が一か所に集まり「ペーパーテストの点数だけで合不合が決まる」のが大勢だった中学受験、それが出来なくなるかも知れない時代にどうやって将来の逸材を選出するのか、まずは未来を予測する前に現在進行中の受験改革の内容を見直してみます。

 

私は中学受験が大好きです。

ペーパーテスト一発で決まる明解さが大好きです。

 

もちろん一発勝負ゆえの運不運、そういった欠点も有ります。

komazawajuku.hatenablog.com

何十年も前から、繰り返し非難される「知識詰め込みの丸暗記教育」という面もたしかに有ります。 それについて考えてみたのが次の記事でした。

komazawajuku.hatenablog.com

 

前者の一発勝負ゆえの運不運については、手段を尽くして減らすべきだと思います。 

 

後者の「知識詰め込みの丸暗記教育」と非難する人は、実はその人自身が不勉強だと私は思います。 御三家・難関校の入試は丸暗記で合格できるほど甘い物ではありません。 ひたすら古典の暗記力を求めた科挙とは違います。 

 

ただし、言われるまでも無いことですが、御三家・難関校に合格する生徒は暗記項目に関しては仕上がっており、その上で応用力を身に付けています。 「知識詰め込みの丸暗記」は済ませていて当たり前の必須項目ということですよね。 でもそれは建物で言うなら基礎、目につきにくい部分かも知れませんので、目につくのは派手な応用力や表現力の部分に偏る訳です。 

 

さて、今回の主題の在宅の時代の入学試験の話ですが、それを考えるにあたり、進行中の変化の中にヒントが有ると考えましたので、中学入試で進行中の変化から目立つものを3つピックアップしてみました。 

1:大学入試改革への対応

2:適性検査型入試の導入

3:突出した能力のアピール型

 

 

1:大学入試改革への対応

大学の入試改革については、さまざまな人が、さまざまな立場から発言しているので分かりにくくなっていますが、鳥観図的な概要としては「二月の勝者」第2巻の保護者会での説明が気に入ってます。

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ま、2020年度は変わらなかった、変えられなかったのですけれど。

 

変わらなかった原因は「やり方がまずかった」に尽きると思うのですが、この「やり方」には『試験を実施する形態』と『試験としての基本設計』の2つ有ることを注意すべきです。 論じられた物を読むと、この2つを(意識的に?)混同して書かれたものが多いと感じます。

 

今年の大学入試改革がドタバタしたのは『実施形態』が右往左往したためですが、もう一方の『基本設計』については見ておくべきものが有るとも考えます。 

そこで、改革の『基本設計』を要素に分けてみました。

要素は「読み取る力」、「伝える力」、「創り出す力」の三点になると考えます。 これ以降ではこの三点を軸に、必要が出て来たら修正するという形で展開してみることにします。

 

 

2:適性検査型入試の導入

何回か受験の機会の有る私立中学校で、その中の一回に公立中高一貫校のような適性検査型の試験を取り入れる学校が増えています。 

 

改めて適性検査の内容を見ると、上に挙げた3つのキーワードに対する能力を知ろうとしている基本設計になっています。

(読み取る力)初めて見る知識を説明文や資料から読み取り

(伝える力)長文の作文を含め、作図や記述式の問題が多く

(創り出す力)正解が一つでない問題で有り得る答えをさぐる

ここでは「公立中高一貫校のような適性検査型の試験」の表層をなぞっただけの考察はしたくないので、上記3項目について一段階抽象化して現状の中学受験全体を見直してみました。

 

(読み取る力)に関しては公立中高一貫校に限った話ではなく、難関校では昔から普通に求められる力です。 保護者様には一度は難関校の四科目を「試験時間の範囲内」で解いてみて頂きたいです。 こんな短時間にこれだけの量(文字数も情報量も)を読み込みのかと驚かれると思います。 大量の情報を読み取り、その中から正解に至る要素を正確に選び出すには「スピード」の訓練だけでなく、必要な情報を選び出すための教養が必須である訳です。 

 

(伝える力)も、たとえば私立武蔵の入学試験での算数の問題用紙に全部書かせる形式や、有名な理科の「おみやげ問題」など、昔から難関校では求められて来た力であると言えます。 私立中堅校でも、解答用紙に記述式の欄がいくつか設けられている入試がとても多いです。 ただし、現時点での趨勢は「紙の上にその場で書く」という方法での表現力であるとも言えるでしょう。 

 

(創り出す力)を評価するというのは3つのキーワードの中で最も難しいと思います。 本当の意味で(創り出す力)を見ようと思ったら、正解が一つだけで無いという問題をやらせてみるのが優れた方法です。 そんな問題でもしも出題者の考えていなかった正解が出て来たら、それこそ最高点を得るべき解答です。 ちょっと毛色の違った答案を安易にバツにしたら想定を超えた秀才を落としてしまう訳ですから、採点作業はとても手間の掛かることになります。 

 

(読み取る力)に関しては問題を作る時に緻密な設計作業が要求されますが、採点作業そのものには大きな影響は出ません。 しかし(伝える力)と(創り出す力)に関しては、現時点での中学入試でも採点作業の長時間化が大きな影響を与えていますので、今後の入試形態を考えてみる場合にも重要な要素になる予感がします。

 

*採点作業の長時間化に関する補足*

解答欄が単純な学校では、午後入試でも当日中に結果発表という日程が普通になっています。 これにより受験プランの自由度(合否を見てダブル出願をしておいた翌朝の受験校を選ぶなど)に大きく貢献しています。しかし、合否発表までの時間が長くなるとそのような日程が不可能になることから、結果を見て受験校を調整するということが出来なくなります。 まあ、学校側から見るとそれはそれでメリットが有るような気がしますけれど。 受験計画の制限を覚悟して受験してくれると言うことは、その学校へのロイヤリティが高い、合格後の辞退率が低い受験生だと期待できる訳ですから。

 

 

3:突出した能力をアピールする入試

2月5日の朝、池袋西口の街角に立っていると楽器や大きな包み、スポーツの道具などを持った少年と保護者のペアが目立ちます。 AO入試(国語・算数・自己アピール面接<約7分>)に向かう姿です。 自己アピール面接は何かしらのアピールを3分半した後に面接官からの質問に答えるという形式です。 2020年は230名が受験して繰り上げを含めて21名が合格しました。

 

芝浦工大附属中学では2018年から事前課題+作文+面接という「第一志望者入試」が実施されています。 

☆ 事前に学校から与えた課題で文章を書いて提出し、面接でその内容に対する質問を含めてプレゼンをする。

☆ 通常回の筆記試験で合格最低点にあと少しという受験生が、通常回の後に挑戦するチャンスを得られる。

☆ 課題に関する調査はおとなに手伝ってもらって良い。

☆ 第一志望者入試を受ける生徒は要件を満たした受験生の中から学校が指名するが、これまでの実績でほぼ全員が合格を勝ち取っている。

という興味深い選考の方法です。 

実は私、ある受験生のお父様から相談されて事前課題の戦略をレクチャーしたことが有ります。 学校の提示したテーマから何を求めているか推測し、小学生が気づきそうな「発見」の候補をいくつか挙げ、その中から本人が面接時に答えられる物を選び、必要な情報の検索方法を伝えるという事前準備への助言と、作成した事前課題から面接時に尋ねられそうな質問の想定までをしてお伝えしました。

 

 

さて、中学受験に関する動きから「基本設計」について見直してみましたが、三つの要素として挙げた「読み取る力」「伝える力」「創り出す力」の三点を幹として考えて大丈夫そうです。

全員が一か所に集まって受けるペーパーテストが不可能になったという想定で、「基本設計」を守りつつ「実施形態」を自由に考えてみるというのは結構楽しい作業です。

今回の「その2」を書きながら、並行して「その3」のメモを書いているのですが、内容が膨らみすぎに陥っているので絞り込みをしてます。

 

 

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