映画「イニシェリン島の精霊」は、とても難解だと多くの人が言っています。
実際、ハリウッド式の映画の文法を当てはめられない作品なので、いきなり見ると私のように茫然自失でエンドロールを見ることになると思います。
そこで、見る前に知っておくと理解がすすむポイントを4つ書きます。
映画のエンドロールで茫然自失になるのを「楽しめる」方は、今日の記事を読まずに映画館に行くことをおすすめします。
昨夜、この映画紹介の記事をアップしました。
記事をアップした後、ギネスを飲みながらyoutubeの解説動画を何本か見て・・・
あれれれ?と感じて、はてなブログの検索に映画のタイトルを入れて、映画の紹介や感想のブログを20本ほど読んでみました・・・驚愕しました。
・アイルランド内戦のメタファーが主題? ・・・違います。
・異常にエスカレートする報復合戦? ・・・違います。真逆です。
・主役のおじさん二人と妹は、みんな同性愛者? ・・・違います。
解説動画を作ったり、ブログに映画評を書くような人たちのほとんどが、難解だ、訳が分からないと書いています。
そこで、この映画を見る前に知っておくと理解がすすむポイントを4つ書くことにしました。 ネタばれは極力避けますので、茫然自失になりたくない人は観覧の前に読んで下さい。
【知的障碍・適応障碍】 【(nice)=善い人】 【最重要シーン】 【エンドロール後】
解説するポイントは、この4つです。
できれば以下の記事を読む前に、昨日のエントリーに目を通しておいてください。
【知的障碍・適応障碍】
岡田斗司夫さんだけが、このポイントに言及していました。
映画の中で、欧米の観客には伝わるシンボルが登場しています。
それはロバです。
コリン・ファレル演じるパードリックの心のよりどころとして、重要な場面では必ず登場しています。
ロバが三度目くらいに登場したシーンで、私は小学生の頃に読んだ岩波少年文庫の「学問のあるロバの話」という小説を思い出しました。
ロバは「愚かさ」と「頑迷さ」の象徴です。
【(nice)=善い人】
岡田斗司夫さんも、これまでアカデミー賞にからんだ作品はすべて「障碍者、人となりを良く知ると、実は善い人」というストーリー「だった」と言及しています。
パードリックと妹の会話で何度も登場する「Am I nice?」に注目してください。
パードリックは「善い人」であり続けることが唯一の友人コルムに嫌われない方法だと信じて、毎日毎日「あたりさわりの無い話」を続けたのです。 20年間ずっと。
【最重要シーン】
これと次のポイントの二つは、誰も書いていません。
(もし、誰かがすでに書いておられましたら、ぜひ教えてください。)
この映画の最重要シーンは、泥酔したパードリックが警官とコルムにからむ場面の最後に、コルムがつぶやく「ひとこと」です。
この「ひとこと」が物語に大転換をもたらします。
そして泥酔していて記憶の無いパードリックに、その「ひとこと」を誰が伝えるかも見逃さないでください。
【エンドロール後】
この映画の原題は「The BANSHEES of INISHERIN」
「BANSHEES」というのはケルト文化に登場する人の死を叫び声で予告する妖精です。
この「バンシー」が黒衣の老婆マコーミックだと書いている人もいますけれど、違います。
そもそも「BANSHEES」って定冠詞付きの複数形ですよね。
原題の「The BANSHEES of INISHERIN」はコルムの作った曲の曲名です。
つまりバンシーとはコルムの心の中にある存在です。
黒衣の老婆マコーミックは、魔女です。
そのマコーミックがした予言は何でした?
予言は「この週末に男が二人死ぬ」でした。
エンドロールまでに死んだのは何人でした?
そのことと、【最重要シーン】をくっつけて考えると物語の全体像が見えてきます。
ここから先はネタばれになるので今日は書きません。
でも、この(素晴らしい、ではなく)凄まじい作品を理解できないのは余りにもったいないので、映画を見る前に知っておいて欲しい4つのポイントを書きました。
ブログに映画評を書くほどの映画好きが(読んだ範囲では)誰も作品のテーマに気付いていないのですから、もっと具体的かつ直裁的な解説を公開した方が良いのかな?
解説を公開するとしたら3月13日(アカデミー賞発表の日)かな。
すこし考えてみます。
正しいことを口にすることが、かならずしも善いこと、とは限らないし。
学問のあるロバも、自らの知力におぼれて悲惨な目に会っていることですし。
2023-02-27 解説の公開を躊躇してます
2023-03-13 公開しました。