安倍首相の記者会見、質疑応答が終わった2020年4月7日の午後8時9分、自宅のベランダに出て家内と二人で一分間の拍手をしました。 駒澤の夜に突然響いた拍手は、うちです。 イタリアでは午後9時に医療従事者に向けた拍手がされているそうですが、私たちのは「我々自身が協力して危機を乗り越えよう」の拍手です。
たとえ集・近・閉の3密を避けてもピークアウトまでは2週間は見込まれているとのこと。 近所で陽性者の発生もあり、不安がつのるのは避けられません。
ですが私は日本という国の社会を信じています。 感染者の数については検査件数の少なさで不明な点があるとしても、日本における新型コロナ肺炎の死者の少なさについては(様々なフェイクニュースが飛び交っていますが)、私は実態を表した数字だと思っています。
日本は災害の国です。 111個の活火山を持ち、4個のプレートの衝突するポイントにあり、発達し切った台風が直撃する場所にあり、列島の急峻さは平地の少なさと豪雨のたびの洪水を招き、日本海を渡った季節風は凄まじい豪雪を降らせ、沿岸には灘(なだ)と呼ばれる航海上の難所が並び、有数の流速を持つ黒潮とあいまって大洋への進出を妨げ、稲作の北限の地である故に幾多の飢饉を生んで来ました。
我々はそんな国に住んできました。
そんな国で災害を共に乗り越えて住んで来ました。
活火山の多さは温泉や美しい山並みだけでなく、日本人のルーツを招きよせた可能性も提唱されています。 太古の昔、海を越えてきた先祖たちは偶然に流れ着いたのか、無謀に大海原に漕ぎ出したのか、いいや、「そこに土地があると知っていたから」大海原を渡るという挑戦をしたのだ、という説です。 大規模噴火の成層圏に届く噴煙や光が、そこに土地があることを人々に知らせたのだと。
4個のプレートが衝突するポイントにあることは、プレート境界型の大地震や大津波を生んできましたが、これが無ければ日本列島そのものが出来なかったという大地のはたらきでもあります。 さらに加えて海底の地層を列島上に押し上げたことで膨大な石灰岩の鉱床を作り、これが明治維新後の産業にセメントの原料として貢献しました。
発達し切った台風が直撃する場所にあることは地形の急峻さともあいまって、山崩れ、洪水、旱魃、高潮などの災害も招きますが、それに対抗するための大規模インフラ整備事業を力を集めて行って来た源泉でもあります。 山には樹を植え、土木の粋をこらした堤防を作り、ため池を掘り、海岸沿いの美しい松並木を植えるなど、祖先が営々と築き上げてきたインフラ構築の資産だと思います。
日本海側に降る凄まじい豪雪は、夏にかけて徐々に溶けることで、その時期に多量の水を必要とする稲作に安定して水を供給をしてくれます。 列島の背骨に積もった多量の雪は天然の利水ダムなのです。
日本は四方を海に囲まれていますが、海の民ではないと私は思っています。 瀬戸内の海運、沿岸の漁業などは盛んであるとしても、そこから一歩外洋に出ると板子一枚下は地獄という例えは実態を表したものです。 各地に灘(なだ)と呼ばれる海域があり、これらは航海上の難所として名前が付くほどの場所で、ヨット乗りにとって日本の沖合いは世界的に見ても航海が難しい場所だったりします。 さらに加えて黒潮、これまた世界有数の流れの速い海流は毎秒2メートルから2.5メートルに達することすらあり、外洋への進出を妨げて来ました。
この海の苛烈さを裏から見ると、言うまでもないですね、豊かな海の幸を与えてくれました。
最後の項目、稲作の北限の地であること。 私はこれが日本人の国民性に決定的な影響を与えてきたと考えます。
稲作を水田で行うというのはたいへんに優れた農耕です。 なにしろ輪作障害が起きない。
山際の土地で、猫の額ほどの場所にも水田が作られているのを見ると、稲作がどれほど生産性の高いか実感できると思います。
ですが日本は稲作の北限の地。 あらかじめ苗を作り、田植えという拷問に近い作業でギリギリのタイミングを見計らって苗を植えても、数日早すぎて霜が降りればたいへんな被害を受けます。
稲穂が実るギリギリのタイミングを見計らって夜明け前から日暮れの後まで稲刈りをすすめても、数日遅すぎて台風が来れば、これまたたいへんな被害を受けてしまいます。
田植えも稲刈りもギリギリの日程の中におさめないと致命的な被害を受ける可能性がある、それが日本における稲作です。 時間厳守、協調性など日本社会の大好きな点の多くが稲作にルーツを持つと思います。
更に加えて、ため池、用水路などの構築で土木技術や派生する数学なども稲作は育てて来ました。 そもそも水田は完全な水平でないと使えませんし。
改めて列挙してみると凄いですね。
我々はそんな国に住んできました。
そんな国で災害を共に乗り越えて住んで来ました。
危機において真価を発揮するのが我々だと信じています。