火曜日の東京はみぞれが降り、午後1時で1.9℃しかありませんでした。
3月16日の震度6強の地震の影響で火力発電所が停止していることに加えて、厳しい冷え込みの影響で電力事情が厳しくなり、「電力需給ひっ迫警報」が発令されました。
その状況を報道する番組の中で「揚水発電」というなつかしい用語を聞きましたので、発電に関する話です。
取り上げる入試問題は、日本女子大付属の2012年です。
私が中学入試の受験生だった50年ほど前、「揚水発電」というのは頻出の知識でした。
仕組みとしてはとても単純です。
上下ふたつのダムを使って、昼間は発電し、電力の余る夜間には発電機のタービンをポンプとして使って上のダムに水を汲み上げるという仕組みです。
最近はどうなのでしょう?
例に挙げた入試問題「日本女子大付属の2012年(平成24年)の大問9」にも「揚水発電」は登場していません。
【問題】
[ 9 ]A~Dの発電に関して、次の問いに答えなさい。
A 風力発電 B 水力発電 C 火力発電 D 原子力発電
(1) A~Dは、様々な力で、発電機を回すことで、発電を行っています。
次の文章はB、Cのしくみを説明しています。 ( )に適する言葉を書きなさい。
B 水が( ① )へ流れる力を利用して、発電機につながっているタービンを回す。
C ものを燃やして熱を発生させ、その熱で高温・高圧の( ② )をつくり、
発電機につながっているタービンを回す。
(2)原子力発電は、A~Cのどの発電のしくみに最も近いといえますか。
(3)最近、環境を守るために、風力発電が注目されています。
風力発電がなぜ環境を守ることにつながるのか、理由をひとつ述べなさい。
(4)風力発電以外で、環境を守ることにつながると、注目されている発電方法をひとつ答えなさい。
【解説】
(1)B 水が( ① )へ流れる力を利用して
低い所 下 下方 など
(1)C その熱で高温・高圧の( ② )をつくり
水蒸気
(2) 原子力発電は、核分裂のエネルギーで発生する熱で高温・高圧の水蒸気をつくり、それをタービンに吹き付けて発電します。 よって C 火力発電
(3) 風力発電が環境を守る理由
入試でのポイントは問題文から与えられる情報を漏れなく受け止めることです。
そこでまず、列挙された発電方式について環境への影響を考えてみます。
D 原子力発電
事故による放射性物質の漏洩が大きな環境問題を起こして来ました。
また、ウランは自然状態でも核分裂をしていますが、人為的に分裂を加速してエネルギーを取り出す訳ですから、地上の熱収支としてはプラスの方向に働きます。
C 火力発電
生物が地中にため込んだ化石燃料を燃やし、その熱で発電します。
いわばエネルギーの貯金を取り崩している訳ですし、発生する二酸化炭素が温暖化現象を引き起こしています。
B 水力発電
エネルギー収支の面では自然環境に影響を与えませんが、「環境を守る」という視点から見ると、上流と下流の分断、流量の低下、水温と水質の変化などにより生物の環境には大きな影響を生じさせてしまいます。
問題文の『理由をひとつ述べなさい。』という指示が無ければ、エネルギー収支と生物の環境への影響が小さいことなどを並列の形で書けるのですが・・・水力発電が有るので、問題文から与えられる情報をきっちり織り込んでの解答を作ろうとすると、難しいですね。
私の作った解答例はこうなりました。
(風力発電は)吹いて来る風のエネルギーの一部だけを使っていて、環境へ与える影響が少ないから。
(4)環境を守る発電方法をひとつ
このあたりの名称をひとつ挙げれば得点できると思います。
化石燃料を使った火力発電と比べれば環境負荷は少ないですが、どれもなんらかの問題は有していますので認識しておきたいです。
太陽光を電気に変えるで地球のエネルギー収支には悪影響を与えません。
設置場所の工事で手抜きをすると表土の流出や洪水の危険性が高まります。
また、太陽電池の原料となる希少元素の採掘と精錬に環境への負荷が有ります。
温泉の熱水や、高温岩体に水を圧入して地熱のエネルギーを取り出す発電法です。
設置に適した場所が国立公園や温泉地のそばである場合が多く景観に影響が出ます。
また、高温高圧の熱水にヒ素などの有害物質が溶けて出てくる場合が有ります。
バイオマス燃料発電
穀物を原料に微生物の発酵でアルコールを作り、それを燃料にした火力発電です。
現金収入を目的として経済優先で耕作地が乱開発されると環境破壊につながります。
また、食用にしない穀物ということで無節操な農薬の濫用が危惧されます。
私個人としては「小規模水力発電」も注目したいです。
里山の小川や用水などの流れに小型の発電機を設置するというもので、環境への負荷も小さく、家庭用の太陽光パネル向けに量産(=低価格化)の進んだ補機類と組み合わせれば十分に実用になると思います。
日本において普及を妨げている大きな要因は硬直化した水利権で、根本的な規制改革が必要です。
周囲を海に囲われた日本においては、海のエネルギーを活用する発電法も研究されていて、海の持つ様々なエネルギーのどれを主に使うかで、いくつもの方式が有ります。
「波力発電」「潮汐発電(潮力発電) 」「海流発電(潮流発電) 」「海洋温度差発電」
環境負荷の少ない発電方式の多くは発電量のコントロールが難しいという欠点を持ちます。
揚水発電も電気の需要と供給を調整する機能への注目が集まるかも知れませんね。
ただ、新たにダムを作るというのは難しいです。
巨大なコンクリートの塊を作って、これを持ち上げて位置のエネルギーとして電気を貯めるという研究の話を見たことが有ります。 理屈はわかりますが、実用性は有るのかな?
むかし流行った「宇宙船地球号」という単語は「SDGs」に名前を変えて絶対の正義のように扱われていますが、どの発電方式もなんらかの欠点を持っています。
理性的な選択を社会が出来るようにしたいですね。