はじめに書いておきますが、今回は裏ワザ的な技法の紹介ではありません。 ごくまっとうな練習方法の話です。 って言うか、思い出話や脱線がほとんどになるかも。
4月29日から5月4日までの三連投で受験生が自宅に居る状態で遠隔の学力判定をするとしたらどのような形になるか書きました。
そこでは「発声」を含んだ「話す力」の訓練は必要になるとしても、それ以外の能力はすでに御三家や難関校の入試で求められていることと同じだという結論でした。
ただし、前提としたのは選択肢方式の千本ノック試験や事前の論文提出などに、画面越しのリモート面接を組み合わせるという方式でした。 もしもリアルタイムの遠隔試験で文章形式の記述が求められると、いわゆる「キーボードリテラシー」、文字入力の能力が必要になります。
これからの時代、端末に文字を入力するというのも必須の技能ですので、文字入力の方法そのものを上達するにはどうすれば良いか、考えてみました。
私自身はQWERTY配列の普通のキーボードでローマ字入力がメインで、タブレットとスマートフォンではフリック入力、ガラホではトグル入力を今でも使っています。
(トグル入力はほとんど画面を見ないで入力できるので移動中などで便利です。)
私としては現時点で一番スピードが速いのはキーボードからのローマ字入力です。
これからのIT技術の進歩も視野に日本語を入力する方法を「選抜試験に使う」という前提で見直してみましょう。
1:音声認識
「アレクサ」とか「オーケーグーグル」とか「シリ」とか使っている様子を見ると、ずいぶん音声認識も発展したのだなと感じます。
同音異義語の多い日本語においてはAI機能による文章解析が必須になるはずです。 とするとAIが参照する知識データベースから入学試験に対応する情報を自動表示させることも出来る訳で、これを選抜試験に使うのはまずいですね。 よって今回の検討からは除外します。
2:手書き入力
(いきなり脱線)
シャープのザウルスが出た時には飛びついて購入し、新型が出るたびに買い替えながら愛用していました。 既に同僚が持っていたソニーのPalmtop(当時の価格で20万円!)と同様な機能が手のひらに乗るコンパクトなサイズで出来るってんで、登場した時にはすごく興奮した記憶が鮮明に残っています。 いつも持ち歩いていて、結婚式に出席したときにテーブルの名が「禄」で、なんでだろうと手書きで漢和辞典を検索したら「さいわい」という読みが有るのだと判って納得したり、スケジューラーや乗り換え案内も重宝していました。
もう一つ鮮明に覚えていることがあって、初めの頃どうしても「糸」という字が認識されなかったのです。 糸へんを持つ漢字が認識されなくて困ってしまって漢和辞典で調べてみたら、「糸」の書き方を間違えてた。 正しくは七画なのに八画で書いていたのが原因でした。
(脱線終了)
手書き入力に関してはデジタルペーパーという形で知的生産のツールとして発展が続いていますが、中学入試に使う入力方式の候補としては速度の面から無視して良さそうですね。
3:トグル入力やフリック入力
キーボードが使える状況で自分の入力装置を持ち込んでトグル入力やフリック入力で書いている人を見たら、歳を取ったことを思いっきり感じるかも知れません。 私はまだ一度も見たことはありませんが、いずれそんな時代が来ると思います。
ガラホのような物理的な形状をそなえたキーを使わないので、フリック入力は画面上のボタンの位置を目で見て確認する必要があります。 書き進めている文章から視線が外れるので私は長い文章をこれで書く気にはなれませんが、英国のテレビドラマの「シャーロック」では一切画面を見ずにメールを送りまくっているシーンがありました。 慣れると自然に指が動くようになるのでしょうか。
4:キーボード入力
私がキーボードを使い始めたのは大学の4年生になって研究室に入ってからでした。 それまでのレポート類は全て手書き。 900字詰めの原稿用紙に一気に20枚ほども書くと腱鞘炎になりかけますので、実用上の理由で万年筆を使っていました。
研究室で昼飯代を賭けてのキーボード入力競争が始まったのが上達のきっかけでした。 内容は単純で、AからZまでを誰が一番速く打てるかというもの。
工学部で実験とレポートに追われてアルバイトをする時間も充分に取れなかったので、勝負に負けるのはなんとしても避けたい。
今なら「タイピング 上達」で検索するのでしょうけれど、まだパソコン通信すら一部の好事家が手探りでやっていた頃ですからYahoo!もgoogleも影も形もありません。
そんなある日、タイプライター教室の広告にこんな感じの図がありました。
出展:タイピンガーZ
ホームポジションの図ですね。 これを見て指の使い方がわかり、一気にタイピングの速度が上がりました。
今は便利な時代ですね。 検索するとタイピングの上達法のページが山ほど出て来ます。 面白いと思ったのは、上の図の引用元を含めてその大部分が「ホームポジションを崩すのがコツ」と書いていること。
ホームポジションで打ちにくいのは、実は当然なことです。 なぜなら、わざと打ちにくい配列になっているから。 タイプライターが機械式だった頃に紙に文字を叩きつけたハンマーが戻る前に次のキーが押されないように、わざと打ちにくい配列にしたそうです。
(脱線開始)
タイピングの速さの話をすると思い出すのはジャストシステムの製品テストでの逸話です。 一太郎Ver.3の時代、ジャストシステムでは専属のバグ出しチームが結構な人数確保されていて徹底的な製品テストをしていました。
そんなチームから開発チームに連絡された不具合の中でどうしても一つ再現できないものが有ったそうです。 開発チームでどれだけ再現をしようとしても報告されたような不具合が出ないので、開発チームがバグ出しチームの部屋に行って目の前で不具合を再現してもらったところ・・・
バグ出しチームの担当者のタイピング速度があまりにも速すぎたのが原因だったそうです。 すごいですね。
(脱線終了)
わざと打ちにくくされたQWERTY配列に対してハードウェアのレベルで改良されたキーボードが昔から提唱されて来ました。
ローマ字の入力に対しては Dvorak配列(どぼらっくはいれつ)が有ります。 現在もパソコンにこの配列にするプログラムを仕込んで使っている人が居ます。
四十七文字を必要とする日本語の入力に関しては色々と紆余曲折が有りましたが、今では1964年の機械式日本語タイプ向けの配列を基にしたJIS規格があります。 上に引用した図にも各キーにかなが印刷されていますね。 今でもこれで打つ人が居ますが、ローマ字の二倍近い文字数の関係で常用するキーが4段になってしまい、かなり打ちづらいです。
使用するキーを3段に抑えた富士通の親指シフトは「専用ワープロ機」の時代に多くの人を魅了しました。 シフトキーによる切り替えを利用して少ない数のキーでかなを入力させるため最初の練習がすこし大変ですが、慣れると快適だということで私の親もこれを使っていました。
JIS規格でも使用するキーを3段に抑えた新JIS配列が制定されたりもしましたが、親指シフトと同様にこれも絶滅危惧種です。
《2020/5/19 追記:ここから》
この記事を書いた翌々日、富士通が親指シフトの販売中止の発表しました。 ちょっとびっくり。
www.fmworld.net《追記:ここまで》
いまだに多くの人が打ちにくいQWERTY配列のキーボードを使って2ストロークを要するローマ字入力で日本語を打ち込んでいるということは、人間が機械を使うときの操作方法(マン・マシン・インターフェース)について非常に保守的である事例です。
(脱線開始)
マン・マシン・インターフェースについては自動車の例で考えると分かりやすいです。
自動車のペダル配置は世界中どこへ行っても同じですが、T型フォードの時代は統一されていませんでした。
参考: T型フォード運転講習会に参加してみた - Car Watch
3個あるペダルは左からクラッチ(兼シフト)、リバース、ブレーキという並び順で、アクセル操作はステアリングコラムから生えたレバー、床から生えたレバーが動力系切り離し兼パーキングブレーキの操作だそうで、今の自動車とまったく異なります。
私は初代プリウスに乗っていましたが、初めて運転した時に強い違和感を覚えました。 それはシフターの並び順と左足パーキングブレーキ。 シフターは初代ではまだ一直線の動きだったので旧来のオートマチックと同様だったのですが、ポジションの表示が「P・R・N・D・B」、「B」ってのはなんじゃらほい? これまでの「L」に相当する低速対応モードなのか?
左足で踏みつけるパーキングブレーキも、マニュアルミッション車に乗っていた期間が長かったのでクラッチペダルと間違えそうで、乗り換えてしばらくは左足を意識してフットレストに押し付けていました。
自動車の運転は、操作が無意識にできるようになると道路状況、ショウウィンドウに映る人影や前後の自動車の運転の癖などに意識をまわせるようになり、安全性が格段に向上します。 ですからシフトパターンをはじめとして操作の方法はできる限り変えて欲しくないです。 オートマチックのシフターのパターンにしても旧来の「P・R・N・D・2・L」を基本とした直線的な操作でなぜいけないのでしょう? 初代プリウスにしても基本パターンは「P・R・N・D」だけにして回生発電を強く効かせる「B」はシフトレバーに別のボタンとして付けても良かったはずです。
プリウスは二代目になって機能的には不要なセンターコンソールが付いただけでなく、シフトパターンも根本からデザインが変更されて更に訳が分からなくなりましたので買い替えの対象から外しました。 プリウスの暴走事故が目立つようになったのは、この二代目からです。 なぜ旧来の直線で操作するレバーから変えたのでしょう? 先進性を見た目で分かるようにしたかったのでしょうか? 人の命に関わる部分で? 最近の新車、特に欧州車を見ると変則的なパターンになっているものが多くてとても気になります。
自動車は安全に、そして快適に移動するという目的を最優先にして、操作上の合理性よりも操作感の継承性を優先すべき機械だと思います。 情報機器への文字入力の方法では、最優先になるのは使う本人が速く正確に入力できることだけなので、自動車より技術革新の入る余地は大きいと思うのですが、それでもいまだにQWERTY配列のキーボードからのローマ字入力が世の主流だというのは多少の機能上の制限があっても慣れていることを優先しているせいだと思います。
(脱線終了)
という訳で、文字入力の方法について私はキーボードからのローマ字入力を続けますが、本人が使いやすければ何でも良いです。 自動車と違って不具合は自己完結しますので、他人を傷つけることは無いですから。
ただ、今後どの方式を使うかは「慣れ」ではなく「速く、正確に」入力できるかどうかを最優先にして選んだ方が有利になります。
想定通り、思い出話や脱線だらけになりましたけれど、最後に本日のテーマ「上達方法」
すごく単純です。
どの入力方法であれ「速く、正確に」入力するコツは、「見ないで入力できるようになる」ことだと思います。
日本でパソコンの主流がPC-9801で、エプソンが互換機を出し、米国からDOS/V機がじわじわと侵攻し、アップル信者が多額のお布施を払っていた頃、いとこの家に遊びに行ったら奥様がキーボード特訓中でした。
キーボードを覆うように「コ」の字の形にした段ボールが置かれていて、その中に手を突っ込んでパソコンの操作をしていました。 コの字形の段ボールの上には「ブラインドタッチ養成ギプス」の文字が太マジックで書かれていました。
単純ですがキーボードを隠しての入力練習はすごく効果が有ります。 お試しあれ。
2021-03-06追記:
キーボードの練習に英語の学習をからめて記事にしました。