一連の「倍数算と倍数変化算」の最終回です。 <倍数算>と<倍数変化算>の両方を同じ解き方で解きます。 式どうしの差を計算することで解く方法です。
今回も慶應中等部の2012年(平成24年)の入試から大問2の(3)です。
【問題】
はじめに、兄と弟が持っている鉛筆の本数の比は7:5でしたが、兄は友達から鉛筆を12本
もらい、弟は友達に鉛筆を4本あげたので、兄と弟の鉛筆の本数の比は12:7になりました。
はじめに兄が持っていた鉛筆は【 】本です。
【解き方】
下図の左上が問題文から最初に書く式です。
問題では「はじめの兄の本数」を問題が尋ねていますので、丸数字を残すために三角の数字を最小公倍数にして消し込みます。
具体的には図のように、上の式全体を7倍、下の式全体を12倍にします。
これで三角の数字がどちらも84になりました。
三角数字の84になる式を等号でつなぎます。 前回と同じ等式が登場しました。
今回は左辺と右辺の間で文字項と定数項の移項をしました。
⑪が132 よって ①=11
求めるのは、はじめの兄の本数ですから ⑦ = 84 (本)
このように<倍数変化算>は解けました、それでは<倍数算>も同じ流れで答えを得られるのでしょうか。 前回の線分図で解く方法では<倍数算>は「差を調べる」というテクニックを必要としましたが、今回はどうでしょうか。
【問題】 光塩女子の2012年(平成24年)第1回入試から大問2の(1)
6年前、母親の年齢はむすめの年齢の3倍でした。 また8年後には、むすめの年齢の2倍になります。 現在のむすめの年齢を答えなさい。
【解説】
同じ処理の流れで等式を作ってみました。
最初の「8+6」については線分図を参照願います。
何度も扱った例題ですので簡単に書くと、
① = 14 ですから、問題で尋ねられている現在の娘の年令は
14 + 6 = 20(歳)
どうでしょう? <倍数変化算>と同じ処理で<倍数算>も解けました。
比の概念や、式の変形について、あるレベルの経験を有している生徒なら、この解き方は早いし、楽です。 気になるのは問題の抽象化が少し進むので、見通しが悪くなることです。
4回に分けて書いた解法を、とりまとめます。
「その1」と「その2」は四谷大塚の予習シリーズに載っている解き方です。
「その3」の線分図を使った解き方は、SAPIXの小5の秋(51-27)の解説に印刷されている解き方です。
初めて解説冊子を見たときには驚きました。
「えっ? 差が一定の倍数算まで線分図で解かせている?
線分を延長して比をそろえるという、やや敷居の高い解き方を使わせる理由は?」って。
校舎での授業の様子を聞いて、腑に落ちました。
「クラスによっては解説プリントの線分図ではなく、比の式を使わせている」
なるほどね。
SAPIXでの解法の基本は、今回「その4」で紹介した比の式を使う方法だと考えます。
それではなぜ51-27の解説プリントがAからEの全ての問題に対して線分図を使っているのか?
物凄く複雑な問題を出す(そうしないと受験生に点差をつけられない)学校の受験生向けに、「とけてもつれた謎を解く」技術を教えようとしているのではないかな。
まだ手持ちの情報が足りないので推測はここまでにしますが、いずれ、また。
今回、4回に分けてご紹介した解き方は「誰に対してもこれがベスト」という物は有りません。 生徒本人のレベルや得手不得手によってベストな方法は変わります。
私個人でいえば今日の解き方が好きです。 同じ方法で倍数算も倍数変化算も解くことが出来ますし、数字を加工する流れも目で追いやすいです。 その1で紹介したフォームに数字を入れ一定な項の比を揃える方法は「横の向き」に整数倍しているのに対して、今日の方法は「縦の向き」に整数倍して数字を消し込むという作業で、消し込むという作業の部分は以前の記事に書いた消去算を表を使って解く方法と同じ考え方です。
個人的には今日の方法が好きですが、それではその1のフォームによる解き方が不要かと言えば、そうでは無いとも思います。 比の導入の時期には「式」を加工する今日の方法よりも、「比」を加工させるその1の方がわかりやすいです。 最初はその1の方法を教え、一定の項が無い倍数変化算の問題に対して今日の方法を追加するという流れが良いと考えます。