予習と復習に関する話の続きです。 「予習シリーズを使う集団塾」という前提で、予習主義と復習主義のそれぞれについて考えてみました。
同じ「予習シリーズ」をテキストとして使う学習塾でも、四谷大塚本体は公式に「予習主義」をうたい、準拠塾の多くは「復習主義」をとっています。 前回は、テキストに予習シリーズを使うという設定で留意すべき特徴を列挙した所まででした。
【予習主義について】
☆ 予習シリーズは最上位生まで使うテキストである
☆ 何を予習するのかという視点をはっきり持ちたい
【復習主義について】
☆ 授業の速度について行けないと「わからない」モードに
☆ 予習シリーズは小4から始まる体系である
前回書いたように、そのどちらかが正解という問題ではないと考えますが、メリット・デメリットを考えるときには関連する事柄を明確な視点で分類して整理することが大切です。
【予習主義について】
《予習シリーズは最上位生まで使うテキストである》
これを意識しないと生徒に過大な負担をかけることになります。
復習主義の塾なら予習シリーズのどこまで学習させるか授業の中で指導を受けられます。
しかし、予習主義の塾でどこまで事前に学習して授業に臨むかという範囲が明確に示されていなかったら、必ず塾に問い合わせをしましょう。 単純に予習で全部をやらせようとすると過負荷になる危険性があるという事です。 たとえば理科の場合、テキストの中でどうしても覚えなければいけないのはごく一部です。
【予習主義について】
《何を予習するのかという視点をはっきり持ちたい》
四谷大塚は予習主義を明示していますので、どのような予習をさせているのか情報を探して「にほんブログ村」の「中学受験(四谷大塚)」のランキング表に有るブログをいくつか読んでみたのですが、どのような内容の予習指示が出ているか具体的な内容が見つけられませんでした。
そこでインターエデュの掲示板で(全般的に情報の信頼性が低いので好きではないのですが)いくつかのスレッドを読み込んでみました。 断片的な情報は得られましたが、あいかわらず軸が噛み合わない主張だけの投稿がならんでいました。 投稿が食い違いだらけになるのは視点の提示無しに自分の意見を書き込んでいるからです。 と言う訳で、視点を整理してみました。
そもそも「予習」とは何でしょう?
『視点1: 事前に「知識」を得ること? 事前にあるレベルまで「解き方」を得ておくこと?』
『視点2: その「知識」や「解き方」を身に付けてから授業に臨むこと? それともぼんやりとした全体像を把握するレベルに留めて心の中に「?」マークを作って授業に臨むこと?』
この2つの視点だけで 2 × 2 = 4通りの分類ができ、そのどれなのかによって予習のやり方も大きく変わるはずです。 一般に予習主義という場合、視点1は「知識」と「解き方」の両方で、視点2は「しっかり(基礎を)身に付けてから授業に臨む」という解釈だと思います。 事前の予習でインプットをある程度まで終えてしまい、授業ではインプットの範囲拡大やアウトプットの演習を中心に行うというイメージです。
授業の前に予習をさせるシステムとして「反転授業」というのが有りますが、この「反転授業」に対しても賛否両論が有り、調べてみたら視点の不明確さが原因で話の噛み合わない主張合戦が延々と続いていました。
出典: 反転授業をするまで気づかなかった、「先生・効率・予習」より大切なこと | hackletter
「反転授業」の是非については長くなるので別の機会に譲りますが、賛成論、反対論それぞれの主張に対して、4通りの分類のどこを前提に語っているか考えながら読むと判りやすいです。 ただ、ひとつ言えるのは4分類のどのケースであれ、授業をする人に高いスキルが要求される事だと思います。 四谷大塚はベテラン講師中心の塾なので実施できるでしょうけれど、他の塾が形だけまねようとすると破綻するのではないかと感じました。
【復習主義について】
《授業の速度について行けないと「わからない」モードに》
私は復習主義の塾で理科の講師をしている時、保護者様には次のように伝えていました。
『基本的に予習は不要です。 しかし全般的に理科が苦手である、あるいは次の授業の単元が苦手な分野と予想されるような場合には、事前に一回だけ予習シリーズを「音読」させてください。 内容を無理に覚える必要はありません。 どんな用語が出て来るか知って、頭の中に「これは何だろう?」という「?」マークが作れればそれで十分です。』
先ほどの分類で言えば、分類1=「知識」 分類2=「?マークの生成まで」の組み合わせによる予習の指示ですね。 復習主義の塾なのに予習を推奨した訳です。
復習主義の場合、授業ではインプットを担うわけですが、生徒が授業のスピードについて行けないと情報を受け取ることがそもそも出来なくなり「わからない」モードに陥る危険性があります。 それを防ぐために登場する用語や、そもそも何を学ぶかということを予習させるのが目的でした。 指示の後半の「?マークが作れれば十分」というのは予習作業の到達目標のレベル感を伝えるのが目的です。 これを書く事で、ご家庭の予習で無理に最上位生レベルまで覚えさせようとして、予習作業そのものが破綻するのを防ぎました。
【復習主義について】
《予習シリーズは小4から始まる体系である》
四谷大塚準拠の塾に小5から入る場合、予習シリーズが小4から始まる体系であることに留意しないと苦労します。
たとえば算数の「場合の数」の単元は小5上巻のタイトルがいきなり「場合の数(3)」です。 (1)と(2)は? 小4の下巻で既に学習済みです。
もっとまずいのが分数の計算で、小4の下巻で分数の加減乗除まで終わっており、分数の計算には不自由が無いという前提で小5の授業が進んでしまいます。 今の時期ですと、第6回「円(2)」はなんとかなるとしても、続く第7回「食塩水」、第8回「売買損益」までには分数の演算を仕上げておかないと、解き方は判っているのに得点が出来ないという悲しい目に会います。
つまり復習主義の塾であっても、小5から参加する生徒は授業の前に小4単元の予習が必要になるという訳です。
《まとめると》
復習主義の塾でも予習が役に立つ場面が結構あります。 ただし予習は目的を明確にして到達レベルも限定して実施すべきです。 極端な例として、いわゆる「先取り」のレベルで予習をしてしまい、油断して、授業での集中力を欠き、騒いで、先生には叱られ、成績も上がらないという生徒を見て来ました。
予習主義の塾の場合、予習の目的・範囲・到達レベルを塾にしっかり確認してから実施して欲しいです。 掲示板の投稿の中の批判的な意見の大部分は、視点が不明確なままで予習を実施してしまい、その結果として不具合が生じた経験(不満)を個人の主観で書いたものでした。
《おまけ》
家庭教師や個別塾などの個人指導を集団塾と併用する場面では、その授業前の予習が有効です。 時間単価の高い授業を最大限に活かすために、事前に生徒本人の復習や、保護者様による簡単な問題への指導を出来る所まで済ませて、それから個人指導に臨むのがベストな進め方だと言う事です。 これはつまり、上手な質問のやり方と同じですね。