駒澤塾:中学受験の算数・理科

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中和:反応熱の問題

昨日紹介した青山学院の入試問題では塩酸に固体の水酸化ナトリウムを加える中和の操作で激しい反応が見られるという記述がありましたが、水溶液を用いた中和反応でも発熱はおきます。 これを使うと中和と熱量の複合問題が作れます。 例題として取り上げるのは慶應普通部の2014年(平成26年)の大問1です。

 

【問題】

塩酸と水酸化ナトリウム水溶液を混ぜると、できた水溶液の温度が上がります。 このことについて、水温を長い時間一定に保てる断熱容器を使って、次のような実験をしました。

〔実験1]

BTB液を入れた塩酸(A液とする)10mLと水酸化ナトリウム水溶液(B液とする)20mLを混ぜると、水溶液の色が緑色になった。 このときの水温を測ると、混ぜる前に比べて 9.2℃ 水温が上がった。 また、できた水溶液を加熱して水分を蒸発させると、白い固体が 1.2g 残った。
〔実験2)]

A液と水を同じ体積ずつ混ぜたC液と、B液と水を同じ体積ずつ混ぜたD液を作った。
C液10mLとD液20mLを混ぜると、できた水溶液は混ぜる前に比べて 4.6℃ 水温が上がった。

 

1. BTB液を入れると緑色になるものを、次の(ア)~(オ)からすべて選び、記号で答えなさい。
 (ア)アンモニア
 (イ)食塩水
 (ウ)石灰水
 (エ)炭酸水
 (オ)蒸留水

2. 実験2で、できた水溶液を加熱して水分を蒸発させると、白い固体は何g残りますか。

3. 実験lと2だけを比べて、残った白い固体の重さと水温上昇にどのような関係があるか、説明しなさい。 (解答用紙の枠は30文字)

 

〔実験3]

A液とB液をそれぞれ実験1の半分ずつ混ぜると、混ぜる前に比べて9.2℃水温が上がった。 また、加熱して水分を蒸発させると、白い固体が0.6g残った。

 

4. 実験3では、 3. で考えた「残った白い固体の重さと水温上昇の関係」が成り立ちません。
 残った白い固体の重さのほかに、水温上昇と関係あることがらは何ですか。 (解答用紙の枠は10文字)

5. 4. のことがらと水温上昇の関係を確かめるには、C液とD液を使ってどのような実験をすればよいですか。  (解答用紙の枠は26文字)
 また、予想される水温上昇と、水分を蒸発させて残る白い固体の重さを答えなさい。

 

【解説】

実験1~3の条件を整理した表を作れば、この問題は難しいものではありません。

しかし頭の中だけで考えようとした受験生は、かなり苦労しただろうと思います。

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1. BTB液が緑色=中性の水溶液を『全て』

   (イ)食塩水    (オ)蒸留水  

 

2.生成物の重さ

塩酸と水酸化ナトリウム水溶液はどちらも濃度が半分ですから、生じる反応も半分、生成する物の重さも半分になります。

  よって、 1.2g ÷ 2 =  0.6g  

 

3.温度上昇の要因

問題文の中の「実験lと2だけを比べて」というフレーズに注意したいですね。 また、直前の 0.6g という答えにも注目したいです。

  残った固体の重さと温度の上昇には正比例の関係がある。  (26文字)

 

4.固体の重さ以外の要因

設問の位置から言って実験3とその前の1か2のどちらかを比べるべきでしょう。 実験3と2を比べると生成物の重さが同じ(=溶質の量が同じ)なのに、水温上昇が2倍になっています。 実験の条件設定でどこが異なるか考えてみれば、混ぜた液体の体積が実験3は2の半分になっているのが原因だとわかります。

  混ぜた液体の体積   (8文字)

 

5.実験法の立案

混ぜた液体の体積と水温上昇が反比例することを確かめたいのですから、それ以外の条件、今回の問題では生成物の主さ(=溶質の量)をそろえて、混ぜた液体の体積だけが異なる条件を設問4の実験3と2の組み合わせ以外に作れば良いことになります。 たとえば

   C液とD液の量を実験2の2倍にした混合をする。   (23文字)

  予想される水温上昇  4.6℃  

  蒸発させて残る固体  1.2g  

声の教育社の模範解答だと実験2の2倍ではなく半分にしているのですが、その条件だと

  混ぜた液体の体積が実験3と同じ15mL

  水温上昇が実験2と同じ4.6℃

  残る白い固体の重さが初めて登場する0.3g

ということになり、白い個体の量をそろえたデータの組が作れていないことから『実験計画法』の観点から見て不適切です。

 

慶應普通部の理科の問題では、今回の枝番1のような『全て選びなさい』という設問が頻繁に出題されます。 『ひとつ選びなさい』と違って消去法やヤマ勘が使えない分、しっかりした知識の習得が要求されます。

 

設問3の『実験lと2だけを比べて』という限定の指示は「人の話を聞かない」生徒にとって失点の大きな原因になりそうです。 過去問演習の時期になると「解答欄に書くのは、君が答えたい事ではなくて、出題者が答えて欲しい事なのだ!」というのが算国理社の垣根を越えて私の口癖のひとつになります。 入試本番までに絶対に対策しておきたいことのひとつです。

 

実験計画を受験生に考えさせる問題は出題する学校がもっと増えると思います。 今の時点では「ひとつだけ条件を変える」という単純なパターンが多いですが、受験生(や塾)側が対策をすすめて点差がつかないようになると「独立事象に関しては複数条件を変えて実験回数を節約する」という本格的な実験計画法の出題が登場するかも?

参考・・・実験計画の立案ではないですが、実験結果の考察に関する問題でひとつだけ条件を変えていることに気付かせる出題の例 

komazawajuku.hatenablog.com

 

 

 

 

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