駒澤塾:中学受験の算数・理科

中学受験の算数・理科を中心に書いて行きます。駒澤が旧字体なのは検索をしやすくするためです。

となりはライバル?

集団制の塾でクラスを担任していたころ、志望校の具体的な校名が見えて来て、生徒たちの間に受験に対する意識が高まってくる時期にした話があります。 「となりに座っているのはライバル? 先生は違うと思ってる。」

 塾、あるいは同じ塾でも校舎によって差は有ると思いますが、そろそろ6年生のクラス編成が固定化される時期です。 成績順の入れ替えを最後まで続ける塾もありますが、私は夏期講習あるいは9月頃から受験本番までの期間はなるべく同じ講師が生徒の対応をする方が好きです。 

塾の先生が教えるのは受験に必要な知識や解法のテクニックだけではありません。 生徒の気持ちを勉強に向かわせるのも大切な仕事です。 合格は先生が取らせてくれるものではなく、生徒が自分で合格するものですから。 先生が出来るのはその背中を押すことだけ。 生徒ひとりひとりの個性をとことんまで把握し、逆に生徒からの信頼感を醸成するためにはそれなりの時間が必要だと思います。 

 

また、受験校の選択に迷いが残った状態で本番期間に突入した場合、担任の先生からの意見が大切になります。 模擬試験は12月に最後の回を受けるわけですから、そこから入試本番まで冬期講習や正月特訓を含んで1ヶ月半もあります。 生徒によってはこの時期の「伸び」に著しいものがあり、それを織り込まないのはもったいないです。 そしてその「伸び」は点数などの数字だけでなく、数ヶ月前との表情の「相対的な差」として、感覚としてわかることが多く、かなり当たります。 

 

さて、そのクラスの固定化と同時期に多くの生徒の意識も変わります。 それまで漠然としていた志望校の校名がはっきりと意識されるようになり、そして合格までの距離感も模擬試験の合格パーセントとして数字で示され、あせりが生まれます。 

このあせりが怖い。 小6の夏期講習から本番までの間は、教室管理がぬるいと生徒間のトラブルが頻発します。 (あと、トイレの備品へのいたずらも要注意だったりします。) そんなトラブルで生徒のやる気が削がれるのは絶対に避けたいです。 

 

集団制の塾では「良い意味での競争」が必ず指導に組み込まれています。 成績別クラス、クラス内の席順、成績上位者のリスト開示など、それがモチベーション醸成にうまく使われれば大きな効果が得られます。 

ただ、それらの順位って小さな集団の中での「相対的な位置」なんですよね。 もちろん本番の受験も成績順に受験生を並べて選別される相対位置の試験ですが、母集団が違う。 ライバルは首都圏全体から集まった受験生です。 

 

このライバル像の変化を生徒に認識させたくて、私はこのような話をして来ました。 

いま、君の横に座っているのはライバル? 

違うよ。 

正確には、ライバルだった生徒、って考えて欲しい。

じゃ、もうライバルなんか居ないかって言うと、それも違う。

新しいライバルに気付いて欲しい。 それは、どういう人だと思う?

  :

そう、君たちが行きたい学校を受けに来る何百人っていう受験生だ。

学校は点数順に受験生を並べて欲しい人数の所に線を引く。

その線より上に居れば合格するし、1点でも足りなければ不合格だ。

君たちがこれから競うのは、それら何百人かの受験生だ。

もちろん、このクラスの中にも同じ学校を受ける者がいる。

でもそれはライバルじゃない、ライバルって考えて欲しくない。

数百人の中のふたりとして、いっしょに戦う戦友って考えて欲しいんだ。

 :

受験まであと半年。

半年をみんなでがんばろう、先生もがんばる。

いっしょに幸せになろうよ。 

 

 

こういう話をする背景には私の原体験があります。 それは入学した私立中高一貫男子校で入学直後の数ヶ月間に見た風景です。 

同級生はみな半端無い受験勉強をして来た生徒でした。 その中には最後まで「まわりは全部が敵! 蹴落とすべきライバル!」という受験勉強をして来た子も居るわけです。 どういうことになるかと言うと、テストのたびに他人の点数を気にして、自分の相対的な位置を知らないと安心できないという状態として現れていました。 

印象深いのは、そういう尋ねて廻る子がかなり少なかったこと。 さらには、尋ねられた方の子が溜め息をつきながら「あのさぁ、もう、そういうの、いいから。 そういうの、もう終わってるんだから。」と答えていたことです。 

厳しい受験を勝ち抜いて、勝ち抜いた瞬間に気持ちの切り替えが出来てるということは、受験勉強中にも明確な目標を持っていたからだと思います。 

 

中学受験はとても厳しい世界です。 生徒にもいろいろな物を捨てさせる事が必要になります。 しかしそのために捨ててはいけない物を捨てさせるのだけは絶対に嫌です。 

 

 

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