保護者から「中学受験の算数は大部分が方程式で答を出せる。それは自分が指導できるので先生は方程式で解けない部分だけを教えてください。」という依頼をされることがあります。 はたしてそうでしょうか? ならばなぜ受験算数などというジャンルが有るのでしょうか? 今日は方程式の利用に関わる話です。
講師の中にも「マルイチ算は魔法のツール。式さえ立てられれば正解を得ることができる。」と言い切る者がけっこう居ます。 また、 中学受験において方程式を使って解くということ自体はなんら問題ありません。 途中式が必須の入試でも方程式で答えを出したという理由で減点する学校は一つも有りません。 そう見て来ると、中学受験の算数で「○○算」と名のついた解法を数十個も覚えるのはなぜか不思議に思えて来ませんか?
受験算数の方が、速いし、間違いも見つけやすいし、判りやすいし、楽だからです。
「えぇ?方程式なんて、いくつかのルールだけ覚えれば、あとは簡単じゃない?」と言うあなた、それは幻想です。 中学・高校と何年も勉強したおとなには当たり前のことも、まっさらな小学生にとっては覚えることが山盛りなのです。 負の数とは何か?から始まって 数直線・絶対値・正負混合の加減・正負混合の乗除・項・係数・除算と分数の関係・文字式・分配法則と結合法則・移項・一次方程式、ここまで学ぶのに公立の中学校では一学期をまるまる使います。 しかもそれで終わりではなく、問題文から最初の式を立てるという手順の訓練を何パターンも終わらせなければ解法の最初の一歩すら踏み出せません。
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いっぽう中学受験の世界は、「○○算」という名前のついたものだけでも数十個あり、バリエーションまで考えれば200個とか300個にもなる解き方のパターンを身につけなければなりません。 一般的な塾のカリキュラムを例に挙げれば、基本的なパターンの習得に小4と小5の丸々2年間をあてています。 それは次のようなたくさんの優位性が有るからです。
・ どの「○○算」が適用できるか見分けられれば最適化された手順で即座に答えをだせる。
・ 対象を文字に置き換える方程式と違い実体の数字を扱うので間違いを見つけやすい。
・ 同様の理由で答えに至る手順が目に見えるので意味を理解しながら学習できる。
・ それらの合わさった効果として、問題を解く作業が楽!って言うか楽しい!
冒頭の方程式を使って中学受験の算数に向かわせようとしている保護者には、本格的な受験勉強スタートの前までに生徒がどこまで身に付けているかを確認します。志望校のレベルにもよりますが小4の終わり頃までに正負混合の計算と移項くらいまでは身に付け終わっている状態で無いなら、方程式と受験算数の両建てで進むのは危険です。
中学入試の世界において受験算数は方程式より優れています。 では文字式の処理に関する知識がまったく不要かと言えばそうではありません。 私も「除算と分数の関係」「文字式」「分配法則と結合法則」「移項」などについては授業の中に織り込んで教えるようにしています。 どのような場面で教えているかという具体的な事例については長くなるので折を見て触れます。
大人にとっては簡単な式の変形が小学生には難しいという例で丸数字を使った問題を載せます。 さすがに上位クラスの生徒ならサラっと正解を出しますが、想像以上に解けない生徒の多い問題です。
【問題】
次の式で①にあたる量を求めなさい。 ただし式の変形(移項)を使って解いてはいけません。
② + 2 = ⑤ - 4
おとなだったら式を変形して 2 + 4 = ⑤ - ② よって ① = 2 簡単ですよね。
これを式の変形(移項)を使わずに解くには? 宿題にしますので考えてみてください。
・・・ ヒントは『線分図』です。
追記: 翌日の記事で解説しました。
更に追記:方程式に関しての関連記事
★大人がしてしまいがちな間違った指導法
★受験用の解法の方が速いし、楽だし、ミスも減るという話
ミスを減らすためには:生徒がすること - 駒澤塾:中学受験の算数・理科
★正負の数のどこが子供にとって難しいのか
数の学習:中学受験後に学ぶもの - 駒澤塾:中学受験の算数・理科
★消去算を文字式を使わずに表だけで解く方法
2022-04-26追記:とても参考になる記事が書かれました。
『中学入試で方程式を駄目と言った学校は無い』
『特殊算と方程式の両方を使えると強い』 に賛同します。